福島の前知事が、原子力“先進国”の内情を語る(3/3 ページ)
東京電力福島第1原発の事故は「起こるべくして起きた人災」と語るのは、福島知事を5期18年務めた佐藤栄佐久氏。なぜ原子力の恩恵にあずかった地元の首長がこのようなことを言ったのか。原子力“先進国”の知事が、内情を振り返った。
「ムラを飛び出し、『脱原発』に踏み切って解決できる問題ではなかった」
《電力産業との共生を図りつつ、発電所立地の優位性を生かして、新たな産業の誘致や育成を進める必要がある》
震災の1年前、福島県が平成22年4月にスタートさせた「県総合計画」の一節だ。
福島県には、明治以降、会津の只見川流域や猪苗代湖で開発された水力発電によって、「首都圏の電気を賄ってきた」という強烈な自負がある。東電は福島県に対してことあるごとに、「明治以来、長きにわたってお世話になっている」(平成6年7月、佐藤にあいさつに来た際の東電社長の言葉)と低姿勢だった。
だが安全に関しては、「お世話になっている」はずの地元が、いつも後回しにされた。
14年、東電が福島第1などのトラブル記録を意図的に改竄、隠蔽していた「トラブル隠し」が露見した。関連会社の元社員が実名で内部告発したにもかかわらず、監督官庁の原子力安全・保安院は告発者を容易に特定できる資料を、当事者の東電側に渡していた。
電力会社と、それを監視すべき立場にある保安院が「グル」だと思われても仕方ない構図。当然、地元は反発した。
低姿勢を装いながら、電力会社も国も、「原発は安全で、原発なしでは地域は成り立たない」と思わせ、地元自治体をも取り込んでいく巧妙なレトリック。そして安全面では地元は軽視される。それが原子力ムラの掟だった。
渡辺は指摘する。
「原発に依存する地元は、安全に関しては常に蚊帳の外に置かれてきた。国と電力会社が癒着(ゆちゃく)していると疑っても仕方のないことだった……」
佐藤も自責の念を込めるように、こう語る。「ムラの掟を崩壊しなければ日本の原子力行政は再生できない。それが社会を大切にするということだ」(敬称略)
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