2011年、マルチ「な」メディアへの移行:中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(3/3 ページ)
この十数年もの間、IT政策の最前線で走り続けている中村伊知哉教授によるカジュアルなつぶやきコラム。政策へのもどかしさがほとばしります! 2011年は過去20年のマルチメディア時代が終わり、次のITステージへと移行するタイミングだ。いま、注目すべき3つの状況とは?
これは、「マルチメディア」からマルチ「な」メディアへの移行でもある。
1990年代初頭のマルチメディアは、映像・音楽・文字を1台で扱う万能の集約型マシンを作ろうとするものだった。1台に、コンピュータも、電話も、ファックスも、テレビも詰まっている。他に何も要らない。
だけど、ここに来て登場した新メディア環境は、その逆。再び、バラバラで多様な機械が現れて、テレビ・PC・ケータイ の3スクリーンに、タッチパネルや家庭内サイネージなども加わって、いろんなデバイスを個人が同時に使いこなす。
「ユビキタス・コンピューティング」。たくさんのコンピュータがつながり合った社会。Xeroxの故・マーク・ワイザー氏が唱えた概念だ。その世界にようやく近づこうとしている。コンピュータは30年ごとに世代が進化してきた。1台を数名で分担して使うメインフレーム=第1世代、1人1台のパーソナルコンピュータ=第2世代、そして1人数台のユビキタス=第3世代。それらは有線・無線の通信・放送「クラウド」で全て常時つながっている環境で達成される。
より重要なのは、それらデバイスやネットワークが「ソーシャル」によって価値を持つということだ。5年ほど前まで、検索エンジンのように、「向こう側」の「CODE」で書かれたものがネット社会の中核だったのだが、友達や知り合いや信頼を置く専門家といった「こっち側の人力」がソーシャルという呼び名で力の源泉となる。
つまり、デバイスがマルチ化し、ネットワークがデジタルで融合し、マルチメディアが完成して、結局のところ、人と人のつながりが価値を持った。それがこの20年の帰結だったわけだ。
90年代後半に思い描いていた、MITメディアラボが鼻高々だったウェアラブルや人工知能はまだじぇんじぇん来ていない。テクノロジが全てを制圧するデジタル社会はどうやらまだ先の話で、もっとこっち側の、ベタな、キュートな、生身のアナログが当面のお相手のようだ。
みんなをつなぐところまではやりました。映像も音声も使えるようにはしました。んで結局、あとは皆さんにお願いします。ってデジタルがアナログに頭下げてる風情。
ははは。分かりゃ、いいんだよ。 デジタルは、ここからやっと面白くなるんじゃないかね。
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