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コラム

弱い国がターゲットにされる、ユーロのジレンマ藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

ギリシャの債務危機を巡り、ユーロ圏の首脳が議論を交わした。ようやくギリシャ支援のパッケージが決まったが、問題はこれで「解決」したのだろうか。金融市場は次なるターゲット……弱い国を探し始めているようだ。

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国家間の同盟関係

 変動相場制の下では、経済が悪化した国は為替相場が下がることで競争力を回復することができる。しかしユーロに加盟したギリシャは、通貨が安くなるという選択肢を失ったために、経済は悪化の一途をたどったとも言える。逆にドイツは、ユーロに加入していることによる恩恵を受けている。実態よりも通貨が安いことで、競争力が強化されたからだ。

 そうなるといかに緊急避難策としてEFSF(欧州金融安定基金)を1兆ユーロに拡大しても、必ずユーロ圏の弱い国が次の標的になる。世界経済がよほどのスピードで成長しない限りは、弱い環は存在するからだ。

 そこで出てくるのが財政・経済統合案だ。市場統一、通貨統一という段階を踏んできたユーロ圏をさらに財政統一、経済政策統一に進めようということである。こうなるとハードルは一段と高くなることは明らかである。要するに国が集まって、あたかも1つの国のように運営しようということだからだ。

 日本という国で考えてみると、県民所得の高い県と低い県がある。当然、どの県も豊かになるために工場を誘致したり、地元産品を他の県に「輸出」しようとする(もちろん他県に売る場合、江戸時代以前と違って関税などはない)。それでも格差は残るため、日本の場合は地方交付税のような形で中央が「調整」している。こうした仕組みは統治機構として県よりも国が上位にあるから可能なことだ。

 しかし国家間の同盟関係では、同盟が国よりも上位にあるわけではない。同盟には当然、約束事がつきものだが、それを破ったからといって、ペナルティを課すのは非常に難しい政治的問題を惹起しかねない。さらにそれぞれに国民がいて、その内政上の問題も大きく影響する。今回の欧州危機でもドイツのメルケル首相が「グズグズ」したようにみえるのは、ギリシャ支援についてドイツ国民の支持がなかなか得られなかったからだ。

 いっそ同盟を国の上位にするという新しい、いわば21世紀型の世界のあり方を考えてみたらどうだろう、というのは思考実験としては興味深いと言えるだろうが、果たしてそこで民主主義的な統治をすることが可能だろうか。意思決定をする人々と、一般の人々の距離は現在の国家の形よりも遙かに遠くなるからである。

 ユーロ圏の危機が意味するところはあまりにも深く、重い。

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