円高が日本を救う!……かも:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
ここ数カ月、1ドル=80円を超える円高が続いており、政府も介入を繰り返しています。円高は輸出産業にとって不利だと言われますが、ちきりんさんはこの円高を契機に日本の産業構造が変化することを期待しているようです。
今回は乗り切れない? でもそれもいいかも
では、日本が誇る“輸出産業”はこの円高を乗り切れるのでしょうか?
ちきりんは「今回はいよいよ乗り切れないかも。でも、それもいいかもしれない」と思っています。というのも、日本の産業界はあまりにこれらの輸出産業依存が強すぎると思うからです。
それは単なる貿易収支の話だけではありません。例えば、「日本の技術力はすごい!」とよく言われましたが、それはもともと一部の製造業だけの話です。それをもって「日本全体がすごい!」ような思い込みさえ形成されましたが、日本は今でも世界に通用しない多くの産業を抱えています。でも、「技術系輸出産業さえ強ければ、ほかの部分はまあ、仕方ない」と見過ごされてきたのです。
また、多くの人が「円安のほうが日本のためになる」と思い込んでいるのも、「技術系輸出産業さえうまくいっていれば日本は大丈夫だ」と考えている人が多いからであって、これは精神的な意味での輸出産業依存です。
そもそも日本はすべての経済活動の源であるエネルギーと食糧の多くを輸入しています。にもかかわらず、国内で円高を歓迎する声がほとんど聞かれないのは、いかにこの国が経済的も非経済的にも輸出産業に依存してきたかを示しています。
けれどこの円高が向こう3年続けば、日本は今度こそ一部の輸出型産業に依存する社会から脱却する必要に迫られます。また技術系輸出型企業も、本社機能の海外移転や、撤退、売却を含めた抜本的な事業の見直しなど、思い切った経営判断を検討し始めるでしょう。
それは決して悪い話ではありません。開発部門や本社部門の人たちが海外で働かざるを得なくなり、そのために英語力やリーダーシップを付けることを求められ、もしくはリストラで大企業を追われた人たちが伸び盛りの新興企業に転職するといったことが起これば、日本経済へのポジティブなインパクトも必ず生まれます。
一時的には不安な人、不満な人が出るでしょうが、ずっと後から振り返れば、これらが日本の経済構造の大転機となるかもしれません。
そうなれば、今回の円高は(前回の円高もまさにそうであったように)日本をより強くしてくれる貴重な機会になりえます。日本は外圧がないとなかなか動けない国なのですから、これもいいチャンスととらえ、各企業には思い切った変革を検討してみてほしいものです。
そんじゃーね。
『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社刊)
ちきりんさんによる新刊『自分のアタマで考えよう』がこのほど発売されました。
「プロ野球の将来性」「結論が出ない会議の秘密」「少子化問題のゆくすえ」「婚活女子の判断基準」「消費者庁が生まれた真相」「就活で失敗しない方法」「自殺の最大の原因」など、社会問題や日常の疑問を考えながら、「ちきりん流・思考の11のルール」を分かりやすく解説しています。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『自分のアタマで考えよう』『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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