なぜ他社の数倍の価格で売れる? ダイソンの掃除機をバラバラにして考えてみた:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
他社の数倍の価格でありながら、多くの顧客に愛されているダイソンの掃除機。サイクロンという特殊な形状を持つ同社の掃除機だが、バラバラにして、その人気の秘密を分析してみた。
掃除機の歴史をバラしたダイソン
19世紀後半に生まれた掃除機は、世紀末前後に真空掃除機や電気式掃除機に進化した。当初は馬に引かせるほどデカかったが次第にコンパクトになり、電気器具として普及する。
しばらく、ゴミは本体に貯めて捨てるという仕組みだったため、掃除機のくせに掃除が大変だった。初めてペーパーバッグが使われたのは1955年(初期は再利用タイプだった)、日本に普及したのは1970年代。だがそれではダイソン社の創業者であり、発明家でもあるジェームス・ダイソン氏が感じたように、すぐに目詰まりして吸引力が落ちてしまう。
それを突破しようとして作った製品は、部品1つ1つが「見たこともない形状」である。さらにその形で「作ろうと決断したこと」がすごい。だからこそ1世紀以上に渡って続いた掃除機の歴史が塗り変わった。変人でなければできっこない。経営計画にのっとっているだけは歴史は変えられないのだ。
だが、その製品価格は他社の数倍。それでも売れるのはなぜか? “ダイソン・プレミアム”とは何なのだろうか?
ダイソン・プレミアムの正体
プレミアムの正体は3つある。第一に「共感」が出発点。掃除機は完璧なものじゃない、吸引力は低下する、ホコリは排出する、細かいゴミが取れない。ダイソンはそれらを「1つ1つ改善します」と訴えてきた。正直なのである。
第二に「現時点の答え」。ダイソンには「なぜ丸いのか?」「なぜホースはそこに付けたのか?」「なぜ吸入口はこの形なのか?」などどこに対しても、なるべくしてこうなったという「現時点の答え」がある。残念だが日本の普及品の多くは、昔の技術を真似たカタチ、無意味な流線型しかない。
第三に「消費者の意見の形成」がある。商品発売後、メーカーは「ウチのはすごい」と言うかせいぜい比較広告止まり。だがダイソンは革新者らしく「どっちが吸う? どっちが使いやすい?」と消費者に試させ、語らせ、納得させてきた。
いずれも経営の定石である。サイクロンの構造もプレミアムの正体も奇をてらったものではない。素直に誠実にゴミと取り組んだ結果だ。ダイソン以外の人々は「過去の常識に吸引されていた」だけだったのだ。
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