ジョブズの否定した7インチタブレットこそが、クラウドのリモコンになる:遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(3/3 ページ)
タブレット端末の大きさはどのくらいがベストなのか。10月に発売された7インチのAmazonのKindle Fireが好調だが、7インチは故スティーブ・ジョブズ氏が否定した大きさでもあるのだ。
7インチの端末には、より大きな市場を予感させるものがある
しかし、それでも7インチの端末が次々とリリースされているのは、より大きな市場を予感させているからだと思う。それは、以前書いた「『iPhone 4S』と『Kindle Fire』、どっちがスゴい?」で触れた領域とも関連することである。
それは、これらのどの端末が、自宅のソファの上に置かれている『TIME』誌や『Sports Illustrated』誌のような存在になるのかというようなことだ。これは確かに、10インチが有利に見える。10インチよりも7インチのほうが一般的な書籍の大きさに近いのだが、それでも端末が十分に軽くなれば、ジョブズ氏が言う10インチがゴールなのかもしれない。しかし、問題は「クラウド上のさまざまなサービスやコマースなどに使う道具としてのスマートデバイスになるのはどれか?」というような話なのだ。
その場合、この領域の一番近くにいるのは、Kindle Fireだと市場は答える可能性がある。噂通り、iPadの7.85インチ版が出てくるとしたら、この領域を狙っているのだろう。カナダのKoboも、電子ペーパー端末のほかに、7インチのAndroidタブレットを展開している※。
そこでは、コンピュータやメディアマシンの延長ではなく、「クラウドを使うリモコン」くらいの気軽さが求められているのではないか? その時に、片手で手に取れる7インチという数字がやはりマジックになると私は思っている。
電子機器についての議論が「画面サイズ」だけになってきているのは、タッチインタフェースと無線通信とクラウドという要素をどの端末も備えるようなり、争点が次の領域へ進んだことを表している。それは、タブレットの領域が業界の予想以上に、これから急速に広がっていくことを予想させる。この領域に、日本はどのように取り組むのか?
遠藤 諭(えんどう さとし)
1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。
コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。
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