第三セクター鉄道が、赤字体質から抜け出せないワケ:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
第三セクター鉄道の多くは、台所事情が厳しい。その背景に「人口の減少」や「クルマの普及」などが挙げられるが、ある基金がネックになっていることを知っている人は少ない。それは「経営安定基金」というものだ。
経営安定基金を前向きに使おう
それでも経営安定基金にはメリットがあるのかもしれない。単年度決算の自治体予算で赤字を補てんすれば、1年単位で第三セクター鉄道の経営評価が必要になり、毎年のように廃線問題が浮上する。経営安定基金を積んでおけば、自治体の予算のサイクルから分離され、複数年度に渡る事業計画を立てられる。いま中学生が何人いて、何年後に高校通学利用者がどのくらいあるのか、2年間で住宅を開発し通勤需要を掘り起こそう、などという展望のもとで設備投資や改善の計画を立てられる。
しかし、基金として運用益が見込めない以上、すでに経営安定基金のメリットは少ない。結局は自治体が補てんしなくてはいけない。そう考えると、肥薩おれんじ鉄道沿線自治体が経営安定基金を取り崩したという判断は英断だといえる。そこには「問題を先送りせず、単年度の収支を見極めて対策を打とう」という強い意志さえ感じられる。
鹿児島県議会の肥薩おれんじ鉄道活性化議員連盟は、さっそく地元の人々との意見交換会を開き、対策を検討し始めたという。
経営安定基金制度を維持した阿佐海岸鉄道の沿線自治体はどういう目算があるのだろうか。低金利が続き、基金運用益は見込めないなかでの基金維持。それは末期医療の薬をストックしただけか。あるいは、経営改善のための新たな設備投資の資金か。
その阿佐海岸鉄道では現在、DMV(※)の実証実験を行っている。DMVがローカル線の特効薬かどうかは疑問が残るが、基金を維持するというのであれば、延命予算だけではなく、どうか前向きな設備投資に振り向けてもらいたい。
関連記事
- 新幹線「300系」は、なぜスピードを追い求めてきたのか
3月のダイヤ改正で、東海道・山陽新幹線の300系電車が引退する。300系は「ひかり」よりも速い列車「のぞみ」として誕生し、鉄道ファンだけではなく、社会に大きなインパクトを与えた。この列車が誕生した背景には、JR東海の周到な準備と戦略があった。 - 向谷実氏が考える鉄道と音楽(前編)――発車メロディ3つのオキテ
「カシオペア」のキーボーディストにして、リアルな鉄道ゲームソフトの開発者でもある向谷実氏が、ここ数年作曲家として取り組んでいるのが駅の「発車メロディ」だ。「ただベルがメロディに変わっただけではない」という向谷氏が考える“あるべき発車メロディ”の姿とは? - 体験乗車から貸し切りサービスまで――“世界でここだけ”「リニモ」の魅力とは?(前編)
静かで急加減速もスムーズなリニアモーターカー。愛・地球博で人気を集めた「リニモ」は万博閉幕後も営業を続けており、最近では体験乗車や貸し切りなどのサービスも行っているのだ。 - 杉山淳一の +R Style・バックナンバー:
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.