コラム
原発を再利用したテーマパークに行ってきた:松田雅央の時事日想(5/5 ページ)
ドイツとオランダの国境近くに、原発を再利用したテーマパークがあることをご存じだろうか。この原発は1986年に完成したが、一度も稼働することなく廃止。実業家の手によって生まれ変わった施設は、一体どんなところなのだろうか。
ブンダーラント・カルカーは世界で他に例を見ない珍しいプロジェクトであり、財政的に成功した点でも特筆に価する。残念なのは稼働を開始した原発は同タイプの再利用が不可能なこと。施設と機器が一度でも放射性物質にさらされれば数十年にわたり多額の費用をかけて解体作業を進めなければならないからだ。そういった意味で他原発がモデルケースとすることはできないが、「現在建設中で、まだ稼働していない原発」の参考とすることは大いに可能だ。
脱原発の反対理由として、よく「地元経済に与える不利益」が取り上げられる。生まれるはずだった雇用機会が失われ、入るはずだった税金や交付金が泡と消えてしまうという主張である。確かにブンダーラント・カルカーは特別な事例だ。しかし原発がなくともアイデアと戦略次第で地元経済を活性化させる手法はあるということを、ブンダーラント・カルカーは身をもって証明している。

カルカー原発として建設されていた当時の写真(左、出典:ブンターラント・カルカーの資料)、テーマパークへ改装後の写真。アルプスの絵が描かれた冷却塔、テニスコート、サッカーグラウンド、小さなオフロードサーキットも見える(右、出典:ブンターラント・カルカーの資料)ブンダーラント・カルカーの基本情報
| 年間来場者数(全施設) | 50〜60万人 |
|---|---|
| 従業員数(冬季/繁忙期) | 200人/500人 |
| 敷地総面積と、現在使用している割合 | サッカーグラウンド80面分、3分の1 |
| 買収額(1995年) | 約400万ユーロ |
| 買収後の投資額 | 約5000万ユーロ |
| 計画中の施設 | 屋内プール、屋内運動場、ウェルネス施設、エネルギーパーク、新しいイベントホール(6000平方メートル) |
| 利用者の年齢層 | 若年層と高齢層が半々。アミューズメントパーク営業時期(3〜11月)は若年層の割合が増え、宿泊客は高齢層の割合が高い |
(出典:ブンターラント・カルカーの資料)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜ信用できないのか? 政府が発表する原発情報に
原発事故を受け、日本全体が揺れている。国民の多くは「政府の言っていることが信用できない」と不信感を抱いているが、なぜこのような事態に陥ったのか。この問題について、原口一博議員と武田邦彦教授が語り合った。
「私も、被ばくした」――蓮池透が語る、原発労働の実態(前編)
北朝鮮による拉致問題で、メディアの前にたびたび登場した蓮池透さん。しかし彼が東京電力で、しかも福島第1原発で働いていたことを知っている人は少ないだろう。今回の大惨事を、蓮池さんはどのように見ているのか。前後編でお送りする。
「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか
3月11日の東日本大震災にともない、発生した福島第一原発事故。日本科学未来館で行われたイベント「未来設計会議第2回『科学者に言いたいこと、ないですか?』」で、東京大学の早野龍五教授は、科学者の本分は「データの出典を示して、解析して、公開して、議論することである」という思いのもと、情報を発信し続けていると語った。