なぜJR東日本は車両部門を強化しているのか:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
東急電鉄がこの春、子会社の東急車輌製造をJR東日本に譲渡する。JR東日本はもともと自社の車両製造部門を持っており、それを強化する。その先には世界市場へ向けた野心と、鉄道会社としての信念があった。
JR東日本も海外を見ている
実は、鉄道会社による車両メーカー取得はJR東日本だけではない。JR東海は2008年に日本車両製造と提携した上で友好的TOBを実施。日本車両製造の過半数の株を取得して子会社化した。理由は「リニア中央新幹線の車両開発と製造力の強化」だった。これは、リニア中央新幹線へと突き進むJR東海の「強い意思」と「コストメリット重視」ともいえるし、既存の新幹線を海外の高速鉄道へ輸出する際の利益の確保ともいえる。
鉄道路線にとって、線路と車両はコンピュータのソフトとハードのような関係だ。線路は一度売ったら終わりだが、列車は経年劣化による交換が必要だし、路線の運営が成功すれば増備も必要になる。約20年という長い間隔ではあるけれど、車両は何度も売れるのだ。JR東海はきっとそこを考えており、すでに車両輸出で先鞭をつけた日本車両の実績にも期待しているだろう。
ところで、2011年11月に、JR東日本が中心となって、海外鉄道コンサルティング事業を営む会社の設立が発表された。会社名は「日本(にっぽん)コンサルタンツ」。出資比率はJR東日本が54%、JR西日本と東京地下鉄が同じで21%、JR九州、JR貨物、東急、京阪が1%ずつとなっている。日本の優れた鉄道技術を海外に売り込もうというプランが動き出す。
JRには高速鉄道だけではなく、正確なダイヤを維持するノウハウや、JR東日本が仙石線で稼働している新しい信号システム(ATACS)、鉄道情報のIP化などの技術がある。車両だけではなく、鉄道路線を丸ごと輸出する準備を整えようとしている。ここにJR東海のリニア、JR北海道のDMVやGPS運行システムなどが加われば心強い。
JR東日本は東急車輌製造を手に入れて足下を固め、水平線の向こうを見ている。
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