なぜジブリは国民的映画を創り続けるのか:新連載・アニメビジネスの今(4/4 ページ)
『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、映画史に残る作品を数々送り出してきたスタジオジブリ。世界の映画史におけるその位置付けを改めて確認し、何が今、課題となっているのかを探る。
ジブリとピクサーに見るビジネスモデル
ジブリは決算関係を公表していないが、恐らく相当な高収益体質であると思われる。それは、同じビジネスモデルを持つピクサーの足跡を見るとよく分かる。スティーブ・ジョブズ氏のもとで世界初の長編フルCGアニメーション『トイ・ストーリー』(1995年)を作ったピクサーは、公開直後に上場したので、1994年からディズニーが買収する2005年までの財務データが残されている。
それを見ると『トイ・ストーリー』がヒットした翌年から純利益率50%前後を維持する、“超”が付く高収益体質であることが分かるのだが、その秘けつはすべての作品をヒットさせている点にある。1作も取りこぼしがないのだ。この事実は映像エンタテインメント、特に映画業界においては奇跡に近い。そして、ジブリもほぼ同様のパターンなのである。
ピクサーもそうだが、ジブリのビジネスモデルは作品公開年の興行売上によって製作費を早々に回収(かつそれ以上の利益分配を受け)、翌年のパッケージ販売でさらに大きな利益を生むという図式である(そのほかに、商品化、出版、音楽関連の売り上げもある)。
このパターンが機能していたがゆえに、ほぼ2年周期で作品を製作できる。これは毎週納品に追われるテレビアニメ制作会社からすると、夢のような環境である。もちろん、劇場オリジナル企画を生み出し完成させるまでの苦労は、それなりに修羅場の連続ではあるだろうが。
しかし今、このジブリを支え続けてきたビジネスモデルが転換期を迎えているように見える。次回は、曲がり角にあるジブリの現状について分析する。
→「『コクリコ坂』が転機に!? 揺れるジブリのビジネスモデル」
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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