愚の骨頂だったことが「いいね!」に――猪子寿之が考える次世代のクリエイティブ:New Order ポスト・ジョブズ時代の新ルール(4/4 ページ)
iPhoneやiPadは、ソフトウエアとハードウエアを融合させ、世界に革新をもたらした。ジャンルの垣根を越えたモノづくりが注目される中、日本でもテクノロジー×リアルの融合に挑戦するのがチームラボの猪子寿之氏だ。彼の眼に、これからの時代に問われるクリエイティブのカタチはどううつっているのか?
先の見えない時代にモノを創る人は、己の美意識を貫くしかない
猪子 たださ、ジョブズは今の状況を完全に見通して、iPhoneとかを作ってたわけじゃないと思うんですよ。彼独特の美意識が、時流が生んだ新しいルールにたまたまフィットしただけというか。
だって、iPodを出す前のアップルって、ハードにこだわり過ぎて、マイクロソフトとのOS競争に負けたわけじゃないですか。MBAの教科書じゃないけど、当時は「なぜアップルはマイクロソフトに負けたのか」みたいなテーマでわんさか議論されてた。それに、ジョブズ自身も、その美意識のせいで、一度は自分の会社を追われてるわけじゃない?
なのに、その「マイクロソフトに負けた理由」が、今はアップル好調の源泉になってる。ビジネス的に考えたら、けっこう前から「ソフト産業はハードに手を出すべきじゃない」っていう常識があったわけだけど、ジョブズはその定説に従わなかったんだよね。
それって、ジョブズに先見の明があったからってよりも、「誰が作ったのかも分かんないようなハードに、アップルのソフトウエアを載せたくない」っていう、彼の美意識だけが理由なんじゃないのかな。だから、やっぱ自分たちで全部作ろうってことになって、そしたらネットワークの時代が来て、彼の美意識が良しとされるようになった。ただそれだけのことだと思うんだよね。
要は、それまでのビジネスじゃ「愚の骨頂だ」って言われていたことが、そうじゃなくなるターニングポイントがあるってことなんじゃないかな。ビジネス的に著しく合理性が欠落しているモノ作りが、突然「いいね」に変わるというか。今って、その変わり目を迎えてるんですよ、きっと。
だからこれからは、携帯電話やPC、テレビだけじゃなく、ほかのモノもどんどんデジタルテクノロジーで再構築されると思う。この先、メインプレーヤーが変わっていく業界も増えていくはずですよ。
――猪子さんご自身が貫いてきた「美意識」とは? そして、それがジョブズのように「時代に受け入れられない状況」に陥った時、くじけたりしないんですか?
猪子 どんどんネットワークありきの社会になっていけば、デジタル関連のクリエイションが、世界を再構築して人間を新しい領域に連れてってくれるって信じてるんだよね。それがジョブズの美意識と似てるかどうかは分かんないけど。もうほとんどカルト的に信じてる。デジタルテクノロジーが都市生活に違った体験を生んだり、古い文化を新しい価値に生まれ変わらせることができるって。
そう信じて、チームラボでもいろんなことをやってきたから、くじけることもたくさんありましたよ。僕らはアップルと違ってまだまだ力がないし、クライアントワークで食わせていただいてる会社だから、スゲー良いモノができたと思っててもお客さんに全然受け入れてもらえなかったり。想像してたモノが全然できなくて、これ以上前に進めないってことも少なくない。
でも、僕、そういうのあんまり気にしないんすよ。ダメだった時は、開き直るしかない。小声で「社会が悪い」とか言っちゃう(笑)。そんで、タイミングを改めてまた挑戦するの。
みんなもそれぐらいの気持ちでやっていく方が、結果が付いてくると思うんですよね。
まぁ、あんまり人さまの参考にはならないかもしれないけど。僕、人として欠落しちゃってるから(笑)。
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