財政再建か国民の生活か、フランス・ギリシャの選挙の意味:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
5月6日、欧州ではEUやユーロ圏の行方を占う2つの大きな選挙が行われた。フランスの大統領選挙とギリシャの議会選挙である。財務危機に対する緊縮財政がもたらした景気の悪化に、国民はどのような回答を付きつけるのだろうか。
経済的には正論でも、政治的には……?
EUで主導権を持っているのはドイツとフランスだ(英国は統一通貨を採用していないし、EUの財政基準を強化する新財政協定には加わらなかった)。その中でもとりわけドイツは第一次世界大戦後のハイパーインフレを経験しているだけに、中央銀行(ブンデスバンク)の考え方は、まさに「インフレの番人」そのものだ。
だからドイツは、ECBが債務過重国の債券を買い入れて金利が上がらないように支援することにもいい顔をしない。「支援される国家にはそれなりの財政規律が必要であり、もしそういった国がモラルハザードを起こせば、ユーロそのものが危うくなる」と主張する。
こういった考え方はある意味で「正論」であるにせよ、政治的には難しい側面を持っている。緊縮政策は国民に痛みを強いるということもあるし、それに各国とも人口減少(とりわけ生産年齢人口の減少)という「慢性病」を抱えているからだ。
日本もそうであるように、生産年齢人口が減少してくると、消費が落ちるということもさることながら、健康保険や社会保障など若い人が支える構造を維持するのが難しくなる。米国は老齢化する欧州(フランスだけは例外)に比べると、3億人を超えた今でも人口は増加中だ。その意味では、ベビーブーマーが引退するという時期にあっても、日本や欧州ほど将来に不安があるわけではない。
政治的困難は、ギリシャやスペインのデモばかりでなく、フランスの大統領選やギリシャの議会選挙、そしてドイツの地方選挙で「実証」された。フランスでもギリシャでも極右のポピュリスト政党が地盤を拡大しているからだ。第二次大戦前にドイツでナチスが台頭した背景にはまさに経済の苦境と拝外主義的ナショナリズムがあった。
今、EUは一方的な緊縮政策ではなく、経済の成長促進にややかじを切ろうとしているかのように見えるが、財政再建と経済成長という連立二次方程式を解くのは容易ではない。そして日本も同じように、この解を求めない限り、デフレスパイラルから抜け出すことは限りなく困難である。この経済の苦境が、日本の政治に何をもたらすのか、それも注目しなければならない。
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