「読売新聞は言論を売っていない」――清武英利氏、佐高信氏が語る出版契約裁判(4/4 ページ)
読売新聞東京本社は4月、七つ森書館と昨年結んだ『会長はなぜ自殺したか』の復刻出版契約の無効を求めて提訴した。社会部時代にキャップとして本に関わった清武英利氏と、監修の佐高信氏は日本外国特派員協会で行った会見で読売新聞社の対応を非難した。
――清武さんに質問したいのですが、再確認ですがどうして読売新聞は『会長はなぜ自殺したのか』の出版を止めようとしていると思いますか。簡潔に説明していただけますか。
清武 これは私の考えなので、実際のところは読売新聞に聞いてもらいたいのですが、基本的に私が渡邊会長を告発したからではないでしょうか。
――今回の読売新聞の出版契約無効確認請求について、契約手続きで権限を有していない次長が署名しているからといったことを持ちだして無効というのは法的には無理があるように思います。しかし、それがこれだけ大きな問題になるのは、それは読売新聞という非常に強い権力を持ったメディアジャイアントだからという理解でいいのでしょうか。だとすると、その読売の力の源泉は何なのでしょうか。
佐高 それはむしろ多くの(読売新聞に)従う人に聞いてほしいのですが、私たちは従わない人なのでよく分からないところがあります。一般的に大きな出版社は何かいちゃもんを付けられると、すぐに発行をやめる傾向があります。七つ森書館と私たちは「冗談じゃない。逆に出そう」と思う方です。みんな従っちゃうんですね。「読売新聞という大きなところが出しているんだから本当だろう」みたいな話になってしまう。
「原子力発電が安全だ」という神話に一番力を貸していたのは日本のメディアです。それなのに彼らは今、全然反省なんかしていないわけですね。例えば、電力会社からお金をもらって安全神話の太鼓を叩いていたビートたけし氏は、毎日のように日本のテレビに出ています。しかし、それに警鐘を鳴らしてきた広瀬隆氏は「上映禁止物体」と陰で言われている。その状況は今現在も変わっていません。「絶滅危惧種」と清武さんのことを言いましたが、それが本当は普通だと思うんですね。そこは非常に繰り返しになりますが、残念だと思います。
清武 2つあります。1つは乱訴です。すぐに「訴えるぞ」と言って、実際に訴える。今回の訴訟が七つの森書館という小さな出版社にとってどれだけの負担になり、どれだけの労力になるかということを多分読売新聞は分かっていると思います。本来大きな気持ちで出せる、一線の記者にとって非常に誇りに思えるような出版物ではないですか。
七つの森書館はあまり言いませんが、「300万円でこの出版物を出さないでもらいたい」ということを元社会部の人間たちが言ってくるというのは私は極めて残念なことだと思いますよ。これを怒らずして言論人と言えるでしょうか。
もう1つは組織の総力を挙げて、記者までを動員して、嫌がらせ的な行為に及ぶことだと思います。この2つが人間を畏怖させているのだと思います。
読売新聞側の主張は
会見の中で、訴訟の背景として「読売グループの渡邊恒雄会長を告発したことがあるのではないか」と話した清武氏。
一方、読売新聞東京本社広報部ではそれを否定し、「題材となった事件が約15年も前で関係者のプライバシーや心情を考慮すべきであることや、清武氏が2011年11月、読売巨人軍の取締役として、忠実義務・善管注意義務違反があったため解任されたことなどからです」とコメントしている。
関連記事
- 津田大介×鈴木謙介、3.11後のメディアと若者(1):何が問題なのか? メディアにころがる常識
メディアが構造的な問題に苦しんでいる――。購読部数の減少、広告収入の低下などさまざまな課題が押し寄せているが、解決の糸口が見えてこない。こうした問題について、ジャーナリストの津田大介氏と社会学者の鈴木謙介氏が語り合った。 - 興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由
近年、新聞連載が映画化され、ヒットに結びつくケースが見られるようになっている。そうした映画には新聞社も出資しているのだが、なぜ今、新聞社が映画事業に進出しているのか。毎日新聞社の宮脇祐介事業本部副部長が、販売・広告以外の収入を求める新聞社の動きについて解説した。 - 「金持ち球団が強い流れに戻っている」――『マネーボール』のビリー・ビーンGMインタビュー
各種統計から選手を客観的に評価するセイバーメトリクスを用いて、2000年代前半に黄金期を迎えたオークランド・アスレチックス。その立役者で、映画『マネーボール』のモデルともなったビリー・ビーンGMに、導入の経緯を尋ねた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.