国会事故調が明らかにした日本の危機管理のあり方:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
東京電力福島原子力発電所事故を検証する国会事故調。国政調査権をもとに、さまざまな関係者から公開でのヒアリングを行っている。それを見続けてきた筆者は、日本の危機管理のあり方に疑問を抱いたという。
フクシマ前後で変わらない原子力安全・保安院の考え方
もう1つ気になるのが、大飯原発再稼働問題だ。もちろんこれは国会事故調のテーマではないが、深野原子力安全・保安院長の参考人聴取を聞いたときのことだ。結局、大飯原発3、4号機については、「メルトダウンに至らないような対策を施した」ということである。簡単に言ってしまえば、全電源喪失になって、原子炉を冷却できない状況にならないように対策したということでしかない。
しかし福島第一原発で大きな問題は、シビアアクシデントが起こった場合の深層防護である。事故の進展防止、影響緩和、さらにはサイト外の緊急時対応によって、公衆の線量レベルを許容値に制限するといった対策だ。住民への避難通告が遅れたことは明らかだったし、連絡も不備だった。オフサイトセンターは何の役にも立たなかった。ベントによって大量の放射能をまき散らしてしまった(現在のIAEA基準ではベントの際に放射性物質を極力出さないようにするためにフィルターを設置することになっている)。
野田首相も言っているように「シビアアクシデントを起こさない対策」は取ったかもしれないが、起きてしまった場合の対策は、ほとんど何もできていない。福島第一原発で残った作業員の拠点となった重要免震棟は大飯にはないし、フィルターも設置されていない。そういった対策には時間がかかるので、とりあえず工程表があればいいということにしたからである。
この意味では、原子力安全・保安院の考え方は、フクシマ以前と以後でまったく変わっていないということだ。それなのに、大飯原発を再稼働させることにしてしまった。当然、ほかの原発についても、ストレステストの第一次評価がまとまったところから動かそうとするだろう。電力会社にとってはその方がコストが安いからである。そして大飯原発を動かした以上、政府がほかの電力会社の原発を動かさないとする理由はない。原子力規制庁がこれから発足しても、実際にやる人たちはあまり変わらないとすれば、本気でどこまで規制するのか、心許ない気がする。
ついでに言えば、懲りないという意味では政治家も同じなのだと思う。例えば、官邸の議事録問題。本来、首相官邸はそこで行われる会議のすべてを録画録音していておかしくない。しかし、日本の首相官邸にはそこまでの装置はない。だから国会事故調でも、誰がどういう話をしたのか、それぞれの記憶しか頼りになるものがない(だから都合よく忘れることも、言い換えることも可能だ)。
それなのに、いまだに官邸ですべての部屋(もちろん首相執務室も含む)に録画録音装置を取り付けるなどという話を聞いたことがない。そしてもし日本に緊急事態が発生したら、同じことが繰り返され、また事故調をいくつも作って真相解明をしなければならなくなる、のかもしれない。「過去の教訓に学ばない」とは、日本人はいつからそこまで傲慢になったのだろうか。
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