国家を超える国家は作れるか? 欧州を悩ます難問:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
6月17日にギリシャの再総選挙が実施されたが、結果がどうあれ欧州危機が続くことは間違いない。解決するには、国家を超える国家が作れるかどうかにかかっている。
国家を超える国家は作れるか
今年すでにメルケル首相は、フランスのサルコジ前大統領などといっしょに新財政協定の音頭を取り、EU加盟国の大部分の賛成を取り付けた。それぞれの国がそれぞれの財政に責任をもつというところは現在と大きな変わりはないが、現在はない罰則規定がついたところが大きく違う。この協定はアイルランドでは批准されることになったが、肝心のドイツはまだ決まらない。
ただ、この新財政協定が批准されたとしても、結局は、豊かな国から貧しい国への援助がなければ同じことの繰り返しになる。そして豊かな国が支援する仕組みはいろいろ考えることができるだろうが、目指すところは国家が集まった国家になるというターゲットがなければ、事は収まらない。
統一市場、統一通貨、そして統一財政、統一国家へと進むということである。欧州新財政協定は、個々の国が財政を監督できる権限をEUに与えるが、それぞれの政府が責任を持つところに主眼が置かれている。しかし統一財政は、それこそ各国の財政当局が実際に予算を編成する権限は奪われるか、相当に縮小されることになるだろう。
国家を超える国家とは人類の歴史上例を見ない社会実験だが、根本的な問題もある。それは民主主義との関連だ。現在はそれぞれの国の意思決定は民主主義的手法で行っている(だからギリシャは混乱しているのだが)。しかし、もしここで超国家が誕生するとしたら、その意思決定はどのような形で行われるのか、という問題だ。
現在は、欧州議会という加盟国が人口に応じて議員を選出する議会が存在するが、通常の国の立法府とは異なり、行政府を縛るようなことはできないと言っていい。しかも議員の数は約740人弱。これで人口5億人を超える国を統治できるのかという問題がある。もしある国をモデルにして統治機構を作るにしても、これは大激論になることは必定だ(それぞれの国は自分に有利にしようとするだろうし、またそれぞれの国の政党によっても考え方は異なるだろう)。そして欧州委員会という官僚機構が結局は実権を握るのではないか、ということを心配する向きもある。
日本の国内で年金を統一するのも大変なのに、欧州各国では年金制度も税制も健康保険の仕組みもそれぞれに違う。これを統一していくだけでも気の遠くなるような時間がかかるに違いない。第二次大戦後始まったこの壮大な社会実験のゴールをどのように設定するのか、それとも過去半世紀以上という時間を放棄してしまうのか、欧州はまさに岐路に立たされている。
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