なぜ原発の安全神話は生まれたのか:民間事故調シンポジウム(3/3 ページ)
福島第一原発事故で崩れ去った原発の安全神話。民間事故調の調査報告書策定に関わった北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授は、推進派と反対派の二極対立が安全神話を強め、また安全神話があったために大事故が起こった際の対策も検討されることがなかったのではないかと分析した。
安全神話が大事故が起こった時の対策を考えなくさせた
鈴木 この安全神話を考えていく上で、安全管理の弊害というものが生まれたんだろうと私たちは考えています。その1つは書類重視の安全規制になってしまったことです。推進側は絶対に安全だということを証明させられる局面があります。その代表が訴訟です。
裁判所ではなぜ安全なのかということを説明しないといけないので、そのための証拠を積み上げていくため、毎回の検査のたびに猛烈な量の書類を作っていかないといけません。一説によると1回の検査でビル4階分の書類が積み上がると言われます。ただ、細かくなればなるほど、ちょっと数字が合わないところをごまかすようなインセンティブを生んでしまったり、もっと言うとサイト全体の安全や最終的には人の命を守るということがある種、ぼやけてしまいます。
結果的に「ハードウエアさえ安全であればいいんだ」という話になって、「深層防護の第3層までをやるのが安全規制だ」という話になってしまう。ですから、「東日本大震災とそれに伴う津波はハードウエアを作る時に想定していなかったことなので、それは我々の責任ではない」みたいな言い方になってしまったわけですね。言い方を変えると、「原発の安全というのはハードウエアさえしっかりしていれば良かったんじゃないか」という思い込みがあったと思います。
最近の大飯原発再稼働の問題に関連して言いますと、ストレステストの一次評価、二次評価というものがあるわけですが、今、大飯原発の再稼働においてストレステストの一次評価の部分だけで再稼働を進めようとしているんです。大飯原発のストレステストの一次評価というのはハードウエアの部分、先ほどの深層防護だと第3層までの話なんですね。二次評価の部分、つまりもしメルトダウンが起こったらどうするのかという評価は出されていないわけです。
そういったことが本当にいいのか。言い方を変えると、今の大飯原発の再稼働のストレステストというのは、これまでやってきたハードウエア中心の安全神話に戻ろうとしているんじゃないかということも考えなければいけないと思います。
こうした安全神話の結果、深層防護の第4層、第5層が欠如することとなり、事故が起こらないという前提なので、防災対策なんてやることに意味がない、そのために必要な機器も訓練も十分に備わっていないということになりました。事故が起こっても、人命を保護することが安全なんだという思想が欠けていたのです。それはSPEEDIの問題であり、リスクコミュニケーションの問題であり、例えばオフサイトセンターの機能不全や、複合災害の視点の欠如といったことがそういう中から表れてきました。
さらにそれは規制ガバナンスの欠如につながります。事業者を厳しく管理するような規制を行うと「原発が危ないんじゃないか」となり、住民の不安をかき立てることになるので、安全神話に基づいて国策として原発を推進していくことと、規制を強化することは矛盾していきます。しかも日本の場合は、その規制をすべき原子力安全・保安院が経産省という原発を推進する組織の中にあることが問題でした。
民間事故調で私が担当したのはこうした安全神話や規制ガバナンスといったことでしたが、これらの問題が結果的にそのリスクに関わる考え方に大きく影響しています。ここの部分で危機管理を行う人とリスクを引き受ける住民との間できちんとした了解がないと、なかなか危機管理はうまくいかないということの一例として、この3.11があるのではないかということを申しまして、私の話を終わりにしたいと思います。
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