守る組織に守る人、それを生む原因とは?:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
昔、ある上司から「知っている情報はもったいぶらずに全部、お客さまに渡せ」と言われたことが、強く記憶に残っているというちきりんさん。全力で走るための動機を作ることが、個人や組織の成長にとって重要なようです。
安心と安定を失うと、人は本気を出さざるを得なくなる
資格や法律も同じです。「こういう資格がないとこの仕事はやってはいけません」と決まれば、その資格を持っている人にとって最も大事な仕事は、「その立場、資格の特権を守ること」です。
もし、「弁護士資格がなくても、弁護士として仕事をしてもよい」と言われれば、弁護士は今より必死にならざるを得ません。なぜなら、渉外分野には海外の弁護士が乗り出してくるし、民間トラブルなら行政書士も乗り出してくるでしょう。資格は持っていないけれど、特定分野で長く職務経験を積んだ、法律の素養のある人たちとも競合し始めます。資格があってもオチオチしてはいられなくなります。
安心と安定を失うと、人は本気を出さざるを得なくなるのです。
資格や法律は、人と組織を守ってくれます。規制業種の会社はすべて法律や制度に守ってもらっています。だから彼らにとって最も大事な仕事は「守ること」です。そして彼らは「守ること」にその才能のすべてを使います。とても優秀な人たちが「全力で自分の地位を守ろう!」とし始めると、ほかの人たちがそれを崩すのはとても難しくなります。
これが、日本の官僚組織で起こっていることですし、日本の大企業で起こっていることです。もっと言えば、日本の国で起こっていることだとも言えます。優秀な人たちが選抜されていくつかの組織に集められ(必死で走るのはせいぜい30歳過ぎまでで)、その後は一生「守る人」として働く。
絶望的?
「同じくらい優秀な人が2人いるとするだろ。そのうちの1人に定期的に価値ある情報を渡す。もう1人には何も渡さない。で、競わせる。人生の全体で、どっちがより高い成果が出せると思う?」と、前述の上司は問いました。
「当然、何かを持っている人の方が強いでしょ」と思うのではないでしょうか。
でも、それは勝負が極めて短期的な場合だけです。彼が言いたかったのは、「必死になれる奴が、守りに入った奴に負けたりはしないから、心配するな」ということです。「価値あるものを渡されると、そいつは必ず守りに入る。だから勝てなくなるんだ」ということです。
高い成果を出したい人は、意識的かつ定期的に自分の持っている価値あるものを、手放すようにすべきです。また、高いパフォーマンスを出せる組織を作りたければ、“守りに入る人”が出ないよう、工夫を埋め込む必要があります。一般的には、有能な人ほど早くから守りに入るので要注意です。
自分自身に対しても、できるだけ“余裕”をため込ませず、全力を出さざるをえない状況に追い込むこと、それが最大限の成果をあげるための方法だ、ということでしょう。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『自分のアタマで考えよう』『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』『社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」。
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