欧州も“決められない政治”に悩んでいる:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
日本の課題となっている“決められない政治”。しかし、財政危機を抱える欧州でも、“決められない政治”に悩まされているのは同じであるようだ。
ユーロ圏の行方は
一方、「鉄の女」メルケル首相のドイツも、内政的にはかなり苦しい。重要な地方選を落としたのはつい最近のことだ。ドイツ最大の人口を擁するウェストファーレン州では、メルケル首相率いる保守系のCDU(キリスト教民主同盟)が大敗し、中道左派SPD(社会民主党)に第1党の座を奪われた。
もともと左派が強い地盤を持っていることもあるが、問題はメルケル首相のユーロ危機への対応に不満があるということだ。独シュピーゲル誌の世論調査によれば、ドイツ国民が気にしているのは「インフレ懸念」である。要するに、財政規律の緩んだギリシャやスペインなどへの支援を続けることは、将来のインフレを招くと考えているということだ。第一次世界大戦後、ドイツはハイパーインフレに襲われた経験があるだけに、インフレへの恐怖感は多国よりも強いかもしれない。そして、「さらにユーロ支援を続けるべきか」と問われて、54%の人が「これ以上は無駄」と答えている。
こうした世論を背景にしている以上、メルケル首相は、ECBは各国の国債発行のラストリゾートではない、財政規律を守らない国へは支援できないといった原則論を維持しなければ支持率がさらに低下しかねない。とはいえ、もしユーロから離脱するような国が現れたら、その影響は計り知れない、というより、何が起こるか分からない。
もちろんドイツは、単一通貨ユーロの恩恵を一番受けた国だ。南欧のような「弱い」国があったから、ユーロの下でドイツは競争力を維持することができた。もしドイツマルクのままであれば、マルク高で苦しんでいたかもしれない。それにユーロ圏内への輸出ではドイツの強みはいかんなく発揮されたはずだ。
国内世論とEUの協調との間で、加盟国の政府はますます身動きが取れなくなっているように見える。こういう時代に危険なのは、国内に「敵」を作って、そこに不満を集中させようとする政治勢力が必ず生まれることだ。欧州の場合、仮想敵になりやすいのは出稼ぎ労働者だ。「こうした人々がいるから、自分たちの賃金が下がって、暮らしが楽にならない」とあおって、過激な右派が勢力を拡大している。フランスでもギリシャでもそういった政治勢力が票を伸ばしているのである。
ユーロ圏経済が立ち直ればいいが、まだまだ現在のような状況が続くとすれば、政治に大きな影響を与えるのは間違いない。その時に既成政党がどう動くか、その動き方を間違えれば、欧州で大衆迎合的な政治が横行することにもなりかねない。それは場合によっては欧州の南北対立を引き起こして、ユーロはもとより、EUそのものも危機に瀕するということも考えられる。日本にできることは、そうならないようにただ見守ることだけである。
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