コラム
馬と人間が一番近い街、相馬野馬追を見てきた:相場英雄の時事日想(震災ルポ南相馬編)(2/5 ページ)
筆者の相場英雄氏が、再び福島県南相馬市を訪れた。目的はこの街の伝統行事である「相馬野馬追」を見るためだ。1人の旅行者として、またモノカキの視点で野馬追に接した印象は……。
28日早朝、家族とともに東京を発った私は、福島市で新潟市から来た両親と合流し、南相馬市鹿島区のJAに到着した。この施設の敷地が「北郷本陣」だ。
広大な駐車場に設けられた本陣には陣幕が張り巡らされ、その内側に武者装束をまとった南相馬の人々が戦国絵巻さながらに「出陣」に備えていた。
大将の掛け声に応じた騎馬武者たちが次々に現れ、勇壮の一言に尽きる伝統行事が始まった。
野馬追が実質的にスタートしたあと、私は武者姿の市民たちが控える仮馬場に足を向けた。
この場所では、地元民と馬達が待機している。あちこち歩き回っているうち、そこかしこからこんな声が私の耳に届いた。
「おぉ、久しぶりだなぁ」「やっと帰ってきたんだぁ」――。
浜通りの訛全てを聞き取れたわけではなかったが、「今日は暑いなぁ」「天気が良くて幸いだった」と同じような頻度で、こうした会話が聞こえてきた。
この北郷本陣は南相馬市の北側の地域にあり、福島第一原発から半径20キロの旧警戒区域に指定されていたわけではない。同市南部に位置する小高区の住民たちが強制的に住まいを離れざるを得なかったこととは少し事情が違う。
だが、幼い子どもを連れた複数の家族の世間話を小耳に挟むうち、放射線の影響を考慮してこの地域から離れた家庭が少なくない、との印象を受けた。
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