コラム
馬と人間が一番近い街、相馬野馬追を見てきた:相場英雄の時事日想(震災ルポ南相馬編)(5/5 ページ)
筆者の相場英雄氏が、再び福島県南相馬市を訪れた。目的はこの街の伝統行事である「相馬野馬追」を見るためだ。1人の旅行者として、またモノカキの視点で野馬追に接した印象は……。
「ここに住んでいた人たちも野馬追に出ているんだな」――。
父がまた呟いた。
小高区の誰が、何人が、どのタイミングで行列に参加するのか私は分からない。だが、間違いなく、29日の一大行列にこの地域の人も合流するはずだと答えた。また、旧相馬中村藩に属していた飯舘村、あるいはいまだに立入りが厳しく制限されている双葉町や浪江町の人たちも同様だと答えた。
津波によって破壊され、原発事故によって立ち入ることさえできなかったエリアを見渡していると、同行していた息子がシャッターを切り出した。
昨夏、息子は宮城県石巻市を始め、女川町、南三陸町、岩手県陸前高田市、大船渡市など甚大な津波被害に遭った地域を訪れている。多少の免疫があったようだが、昨年と同じよう姿で放置された光景に黙り込んでいた。親がなにも言わずとも、子どもながらに異様な事が起こったことを感じた様子だった。
30分ほど、家族と両親が現場に立ち尽くした。年老いた母が、私の祖父である相場英雄が亡くなったとき以来、号泣しているのに驚いた。
関連記事
- 旧警戒区域の内側は今、どうなっているのか
福島第一原発の事故を受け、南相馬市に住む多くの住民が避難を余儀なくさせられた。現在は「警戒区域」の規制が解除され、許可証を持たない人間でも立ち入りが可能になった。5月12日、そこに足を踏み入れた筆者が目にしたものは……。 - 「ピンクスライム」は問題にならないのか 食品業界の裏側に迫る
米国のファストフード業界が揺れている。低価格を支えるある加工商品がやり玉に上がっているが、米当局や専門家は安全性に問題はないとしている。それにしてもこの問題、日本に“飛び火”するかもしれない。 - “やらせライター”に困っている……とあるラーメン店の話
とあるラーメン店の店主がこう言った。「本業以外の雑務が増えてやりにくい。昔はこんな気を遣う必要なかったのに」と。本業とは、もちろん丹誠込めて作る自信作のラーメンのこと。では本業以外とは、一体どんなことなのだろうか。 - どうした自動車ジャーナリスト! 事実を語らない裏事情
どの世界にも事実を伝えようとしない、いわゆる“御用ジャーナリスト”が存在する。中でもクルマ業界のそれが、目立ってきているのではないだろうか。本当のネタを語ろうとしない自動車ジャーナリストの裏事情に迫った。 - 原発事故でも「相馬魂」は消えない――東北六大祭り・相馬野馬追と一時帰宅
福島県相馬地方の野馬追は1000年以上の歴史を誇るきらびやかな祭り。地元の人たちは1年で最大のイベントとして心待ちにしている。今年は規模を縮小して行われたが、同じタイミングで、福島第一原発から20キロ圏内の住民は一時帰宅を許された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.