会社が大きくなって、手にしたモノ、失ったモノ:新連載・佐々木俊尚×松井博 グローバル化と幸福の怪しい関係(5/5 ページ)
企業が巨大化している――。背景には「グローバル化に対応するため」といった狙いがあるのだが、こうした流れは私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか。ジャーナリストの佐々木俊尚氏とアップルで働いてきた松井博氏が語り合った。
松井:そうです。仕事はあまり生まれないんじゃないかな……と思っていて。
佐々木:でも、例えばフォックスコン(Foxconn)には70万人ぐらいの労働者がいて、アップルなどの製品を組み立てています。あれが一種の「ローカルサポート」であれば、仕事は生まれているのではないでしょうか。ただしその場合、報酬が完全に世界平準化してしまいますが。
松井:中国にとっては悪い話じゃないと思うんですよ。でも、日本はどうなっていくのでしょうか。例えば、円高の問題があります。1ドル=120円のときに日本へ来て、100円ショップに行けば「安いなあ」と感じる。でも、1ドル=70円のときでは「まあ、今は買わなくてもいいか」となる。結局、そこでは買わないことになるのですが、そういうしわ寄せって企業にいくはず。
Web制作の仕事はどこで
松井:話が少し変わりますが、私はアップルを辞めたあとに、携帯情報端末などを製造するパーム(Palm)で半年ほど働いていました。この会社はけっこう外注を出していたんですよ。ルーマニアに。
佐々木:東欧はソフトウェアの開発技術が強いですからね。
松井:ルーマニアは教育レベルがすごく高いのに仕事が少なくて、大学院を卒業しても就職できないというのは当たり前。ではどうやって生活をしているのかというと、仕事をとってきてくれる会社があるんですね。
例えばマイクロソフトもかなりルーマニアに仕事を投げている、と聞いています。ルーマニア人の賃金は、米国人の半分ほど。しかも時差の関係で、米国人が寝ている間に、仕事をやってくれる。でも、本来は米国にあるはずの雇用が、ルーマニアに移ってしまってるんですよね。
佐々木:なるほど。
松井:米国が夜のときに、ルーマニアでは昼間。両者にとって、とても都合がいいことなんですね。私も以前、東京とアイルランドに関連部署をもっていました。そこで時差を利用すれば、24時間体制で仕事をまわすことができてしまう。
佐々木:それをプラットフォーム化したのが「クラウドソーシング」(ネットなどを通じて、不特定多数の人に業務を委託する雇用形態)ですよね。Web制作の仕事がアフリカに奪われているようなもの。同じ仕事を米国ですれば何十万円もかかるものが、ナイジェリアであれば数千円でできてしまう。米国で単純なWeb製作をしている人には、もう仕事がないですよね。
(つづく)
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