日本の総選挙より重要、米国大統領選の行方は:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
日本では総選挙の時期が話題となっているが、世界的には目前に迫った米国大統領選の方が注目である。この結果によって、世界経済の方向性も決まってしまうからだ。
共和党が勝てば財政再建に
米国大統領選の共和党の副大統領候補になったポール・ライアン下院議員は筋金入りの小さな政府論者。やや中道寄りのロムニー氏にとっては、ティーパーティのような右派を取り入れるにはいいパートナーだ。しかし、もし共和党が勝てば、オバマ大統領の景気刺激策はひっくり返される懸念がある。
米国が財政再建に走ればどうなるかは火を見るより明らかだ。大西洋を挟んで米国の反対側にある英国は、すでに2年前にキャメロン政権(保守党と自由民主党の連立)が成立してから、景気立て直しよりも財政再建に取り組んできた。英国の考え方は財政再建をすれば消費者は将来の不安がなくなるために、財布のヒモを緩めるというのである。これを非ケインズ効果と呼ぶ。
ただ問題は、財政再建の過程では相当に苦しい時期があるということだ。実際、英国はマイナス成長が2四半期続き、景気は二番底に入った。この景気の悪さのためにオズボーン財務相はこのところ苦境に立たされている。もっとも英国経済の苦境は、英国だけの問題ではない。EUの景気全体が落ち込んでドイツですらゼロ成長になっているような状況では、英国がマイナス成長になるのも無理はない。キャメロン政権の財政再建が誤っているとは思わないが、世界的に需要が落ち込み、中国やインドといった新興国経済に急ブレーキがかかっているような状況で、財政再建に軸足を置くべきではないのかもしれない。
だから米国の大統領選で民主党オバマ現大統領が勝つのか、共和党ロムニー候補が勝つのかが大問題なのだ。もし米国が財政再建に軸足を移したりすれば、先進国グループにも新興国グループにも世界を牽引する国が見当たらなくなってしまう。そうなると世界経済は2008年のリーマンショックのときよりも手ひどい打撃を受ける可能性がある。
英エコノミスト誌最新号はオバマ大統領の過去4年間の政策について、歴代の大統領の中でも非常に厳しい経済環境だったし、もっと悪くなったかもしれない米経済をここまで支えたと評価している。
かつて世界経済を牽引する「機関車国」という言葉があった。そのころは日米独の3大機関車国と言われたものだが、いまや日本はその地位から滑り落ち、最近のドイツは急激に勢いを失っている(ドイツだけの問題ではなく欧州の危機が足を引っ張っている形)。よろよろという感じではあっても景気が回復途上にある米国がここで急激にかじを切ってしまうと、それこそ世界経済を引っ張る国がなくなってしまう。そのリスクを抱えながらの米大統領選。今のところオバマ大統領がやや優位だが、果たして11月の投票日にどうなるか、それはまだ分からない。
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