新卒の就職難は、個人情報の過保護も一因
近年ますます厳しくなっている個人情報保護の動き。しかし、個人情報が過剰に保護されることで、企業と学生の出会いの機会が減っている一面もあるのではないだろうか。
著者プロフィール
川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ」
昔の新卒の採用活動では、企業から学生に直接アプローチできた。時々の景気の状況で採用人数は変動してきたが、ターゲットとする学生に対するニーズは基本的に一定で、彼らに対する企業の採用活動は景気によらず常にアクティブなものだった。それは、学生名簿が入手できたことによる。
さまざまなルートから学生の名簿を手に入れることができ、名簿を片手に直接電話をかけて会う約束を取り付けたり、その名簿から絞り込んでDMを発送したりしていて、特に知名度のない会社、広告費をかけられない会社にとっては、有効な採用手法だった。
個人情報保護法は情報セキュリティの面で一定の役割を果たしてきたが、「個人情報は誰に対してもどんな状況でも何が何でも隠すべきだ」という過剰反応によって、必要な情報が非開示となり、問題や不便も多く起こっている。
採用活動も同様で、学生名簿を入手できなくなった結果、企業は積極的に学生にアプローチすることができなくなり、広告や求人票を出して待つしかなくなった。採用サイトにはスカウトメールなどの機能もあって、企業からアプローチもできるが、お金がかかるしメールでは反応を得るのも容易ではない。個人情報保護は企業の採用活動をすっかり受け身な姿勢にし、結果、企業と学生との出会いを減らしてしまっているのである。
就職できない学生が多いことやいわゆるミスマッチの増加という問題は、学生に就職や会社選びのノウハウを教えても解決しない。いくら会社や就職、仕事について勉強したところで、情報は圧倒的に非対称であり、少ない情報しか持っていない方が適切に判断することは不可能だからだ。
どのような就職がいいか、論理的に正解を導くことも不可能だ。進路選択にはまったく視野になかった会社や、思わぬ人との出会いが付きものであり、必要なのであって、そのような機会を奪ってしまっている今の状況は、個人情報保護のデメリットの典型例、個人情報過保護の結果である。企業が学生の名簿を入手できれば、知名度のない会社、広告費をかけられない会社の採用活動が活発になり、新卒の就職状況は改善するだろう。就職状況の芳しくない学校にとってもメリットがあるはずだ。
もちろんリスクでもあるが、しっかりしたルールを作って企業側にその遵守を約束してもらうことを前提に、個人情報を提供することを考えるべきではないか。「就職できるチャンスが広がるなら、個人情報を提供しても構わない」と考える学生だって多いだろう。大学が開催する、親向け就職セミナーが満員になるのだから、親だって同じ気持ちだろうと思う。守るべきは学生の就職機会であり、個人情報ではない。(川口雅裕)
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