「弱者保護」がさらなる弱者を生む、という構図:「弱者」はなぜ救われないのか(2)(3/3 ページ)
改正貸金業法の施行を受け、貸金業者はわずか6年で6分の1に激減した(2006年3月末に1万4236社→2012年3月末に2350社)。仕事があるのに、融資を受けられないがために仕事を請けられない……。こんなケースが出てきているのだ。
「弱者保護」がさらなる弱者を生んでいく
2006年3月末に1万4236社あった貸金業者数は、2012年3月末には2350社まで、法改正を受けてわずか6年で6分の1に激減している。(貸金業者数が最大だったのは1986年の4万7504社)。仕事があるにもかかわらず、融資を受けられないがために仕事を請けられないというケースが生まれている。「弱者保護」がさらなる弱者を生んでいく一例である。
これは、派遣切りに代表される弱者を救済しようという旗印のもとで提出された「改正労働者派遣法」(派遣業者への規制を強化する法案)や、「最低賃金法」(最低賃金の上昇は企業経営の悪化を招き、廃業や解雇、雇い止め等労働環境の悪化をもたらしかねない)、「借地借家法」(借り手の権利が強過ぎることで貸し手の家賃収入や土地再利用に過度な不利益が生じかねない)といった、数々の規制をめぐる議論とまったく同じ構図だ。
また、海外の事例ではあるが、米国で採用されている、黒人や有色人に向けた大学など教育機関への進学優遇措置や連邦機関や自治体などへの雇用優遇措置「アファーマティブ・アクション」や、マレーシアの「ブミプトラ政策」も似たような弱者救済策であると同時に、その救済策がさらなる弱者を生んでいるという弊害が指摘されていれる。
「ブミプトラ政策」は、先住民で国民の65%を占めるマレー人がイギリス植民地時代にイギリス人や華僑から搾取され不利な立場に追い込まれていたことを踏まえ、独立後、経済的に優位な立場にあった華僑に対するマレー人の立場を回復するためにマハティール政権下で推進された一連のマレー人優遇政策である。
具体的には、国立大学への入学や公務員などの雇用面でマレー人が優先されている他、税率軽減などのビジネスにおける優遇措置も行われている。結果としてマレー人の優位性は回復されたものの、一方でマハティール前首相自身、その著書で「マレー人には勤勉さが足りない」と述べており、優遇政策には懐疑的な面があることも示唆している。
実際、「ブミプトラ政策」の導入によって国立大学の国際的レベルが下がっているといった指摘がある他、実はマレー系民族間でも貧富の格差が大きくなっており、優遇措置の恩恵を被っているのはマレー系実業家といった富裕層が中心となってしまっていて、本来の弱者優遇の目的から現実が乖離してきているという見方もある。
過大な優遇政策が国民から「独立心」と「勤勉さ」をそいでいる可能性を暗示しているのではないか。
(つづく)
関連記事
- ヤミ金被害は、本当に減っているのか?
年収の3分の1以上の借り入れを制限する「総量規制」が、2010年6月に完全施行された。その結果、消費者金融などからお金を借りていた人たちはどのような立場に追い込まれたのか。 - 借金大国日本で“踏み倒す人”が急増している理由
国民年金、給食費、授業料、治療費……今、公的な支払いを踏み倒す人が増えている。この背景には、いったいどんな「裏」があるのだろうか? - 『闇金ウシジマくん』の関係者が語る、“優しい闇金”の真相(前編)
“優しい闇金融”と呼ばれる違法ビジネスを営む輩が、水面下でうごめいているのをご存じだろうか。その実態はベールに包まれていたが、ノンフィクションライターの窪田順生氏が彼らの実態を明らかにした。 - あなたのそばにいる“優しいヤミ金融”……その実態は?
かつて高金利で厳しい取り立てを行い、社会問題にもなったヤミ金融。しかし今では、“優しいヤミ金融”と呼ばれる非合法な業者がはびこっているというが、その実態は不透明だ。そこで貸金業に詳しい、東京情報大学の堂下浩准教授に話を聞いた。 - 改正貸金業法から考える、日本人とお金の関係
2年前に完全施行された改正貸金業法によって、貸し出しの上限金利は20%となり、個人は年収の3分の1までしか借りられなくなった。ある意味おせっかいとも言える規制ができた背景には、日本人のお金に対する考え方があるからかもしれない。 - あなたもお金が借りられなくなる? 法律が招いた“優しいヤミ金”
あなたは「優しいヤミ金融」という言葉をご存じだろうか? かつてのヤミ金といえば「取り立てが厳しい」「金利が高い」といったイメージがあるが、この優しいヤミ金とは「取り立ては厳しくない」「金利は高くないが、違法」といった手口だという。 - 消費者金融を襲う3つの難題
消費者金融が試練に立たされている。返還請求で巨額の赤字を計上、新貸金業法で事業の縮小が予想される。淘汰か、再編か、業界の悩みが続く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.