私たちは津波に対するリスク感覚が低下している(2/2 ページ)
東日本大震災の報道で大きく伝えられた津波の恐ろしさ。しかしそれによって、津波に対して感じるリスクが、逆に低下している可能性があるといいます。
アンカリング効果で過少な数字に見えているのでは
なぜこんな結果になったのでしょうか?
その有力な理由(仮説)として考えられるのが、「アンカリング」なのです。震災後、マスコミ報道では、「大船渡の津波23メートル」「津波37.9メートル 国内最大級 宮古・田老地区」といった表現が繰り返し流されました。いかに「高い津波」が東北を襲ったかが強調されたのです。
こうした報道を目にした人々にとっては、3メートル未満の津波はそれほど大したことがないように感じられるようになってしまった。つまり、23メートルに対して3メートルという高さは、アンカリング効果によって過少な数字に見えてしまっているのではないかと考えられるのです。
現実には、50センチメートルの津波でも人々は立っていることができませんし、木造家屋は、2メートルの津波で多くが全壊してしまうほどの脅威があるのですが。
大木氏は、この調査結果が示すように、情報の提示のされ方によって、人々のリスク感度が鈍くなる可能性を踏まえて、「1メートルで木造家屋は半壊、2メートルでは全壊」といった平時には伝えられている基本知識を災害発生時の報道や防災無線の呼びかけにおいても、付け加えるべきこと。また、「10メートルを越える大津波」といった表現をする際には、「1メートルでも危険である」という注意を補足することを提言しています。
アンカリングは、私たちの無意識の直感的判断に影響するだけに、単に「心がける」「気をつける」だけでは制御することが難しいもの。適切な情報提供の工夫が必要なのです。(松尾順)
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