「東京駅復原」で浮き上がる、貧困な景観デザイン:杉山淳一の時事日想(3/3 ページ)
東京駅丸の内駅舎の復原工事が終わり、ついに赤レンガ駅舎が姿を現した。しかし全幅300メートル以上の駅舎は、正面から視野に収められない。皮肉なことに、美しい丸の内駅舎は日本の景観デザインの貧困さを浮かび上がらせてしまった。
景観デザインを考慮した駅前広場を
丸の内駅舎周辺の邪魔な建造物は、それぞれ必要な施設であるし、いまさら文句を言っても仕方ない。ただ、この景観を見れば、これらの施設を作った当時は実利一辺倒で、環境や都市景観のデザインに対する意識がいかに低かったかが分かる。今すぐとは言わないまでも、何十年かあと、それぞれの施設を更新するときには、ぜひ、施設単体ではなく、地域全体の風景を考慮してもらいたい。
換気塔について言えば、最新の技術でもっと細くできそうだ。山手通りの地下で建設されている道路トンネルの換気塔は細いし、至近な例で恐縮だが、私の母の実家の銭湯の煙突もかなり細くなっている。とりあえず、外観をレンガ風の素材で埋めてくれるだけでも新駅舎と調和すると思う。
最近は街全体の景観デザインを重視する傾向があるようだ。駅前広場といえば、渋谷駅の再開発事業が興味深い。特に渋谷駅西口は、国道246号線と道玄坂を結ぶ道路を廃止して自動車の通行を止める。その上でハチ公前広場を広げ、バスターミナルを拡充するという。西口前に作られる空間もあり、広大な広場が誕生する。
私がクルマで何度も通った道路がなくなるので、このプランには驚いた。しかし「山手通り地下の高速道路完成などで渋谷駅周辺の通過車両が減る」、「東口の明治通りと国道246号の拡幅によって自動車の導線が改良される」という前提があってこその英断だろう。
丸の内駅舎は美しい。しかし、街の景観は個々の建物をきれいにしただけではダメだ。個々の建物の美しさを生かすために、あらゆる物体のデザインを調和させなくてはいけない。景観デザインの意味で、丸の内界隈は良い反面教師になるだろう。
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