ヒット連発の映画プロデューサーは「石ころぼうし」の視点で世界を見る:窪田順生の時事日想(4/4 ページ)
『モテキ』や『悪人』などを手がけてきた映画プロデューサー・川村元気氏が初の小説『もし世界から猫が消えたなら』を10月25日に発売する。人生哲学エンターテインメントともいえるこの物語を読むと、彼が世界をどのように見ているのかという「視点」が浮かんできた。
映画のなかで結論を出さない
――「人生哲学エンターテインメント」ともうたわれていますが、死を目前にした主人公が本当にいろいろなことを考えますね。
川村:吉田(修一)さんからは、明日死ぬというのに、大騒ぎも悪あがきもしない主人公の執着のなさが面白いと言っていただいたのですが、あれは僕なんです。
この小説を書くにあたって、「死を前にしたら」というシュミュレーションをとことんやりました。そしたら、僕はじっとしているだろうなと。悪あがきをする人より、もっと弱いんで何もできないと思ったんです。
これは「世代」もあるかもしれません。僕は今33歳なんですけど、何かすごく欲しがったり、失ったりするというのが「薄い」と思います。僕の周りの友人たちは、ギャンブルや風俗などに、ほとんど行きません。あまり“濃い”ことをしないんですね。でも、“こだわり”はある。
この物語の「薄い主人公」も最期に向けてこだわっていく。「猫」にこだわるというのはかなりシュールだと思うんです。でも「猫」というのは、「他人にとってはどうでもいいことかもしれないが、自分にとってはかけがえのないもの」の象徴ともいえます。
僕は「映画のなかで結論を出さないようにする」ということを心掛けていて、今回の小説もそこにはこだわりました。小説を読み終わった後、物語の続きを想像したり、誰かと語り合ったりしたくなるような作品になっていると思います。自分の価値観と他人の価値観を照らし合わせる“きっかけ”になればと思っていますし、そのなかで自分にとっての「猫」とは何かを見つけてもらえれば嬉しいです。
プロフィール:
川村元気(かわむら・げんき)
1979年生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』などを製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia 2010」に選出され、11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。
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