森口尚史さんのウソで露呈した、マスコミの“弱点”とは?:窪田順生の時事日想(3/3 ページ)
iPS細胞をめぐって、読売新聞が森口尚史さんにダマされたなんだという騒動がようやく落ち着いてきた。それにしても大手マスコミがなぜ相次いでダマされたのか。その背景には、マスコミが抱える構造的な問題があるからだ。
“裏取り省略”の構造
エラいお医者さんが立派なことをしている。すぐに他のマスコミが後追いし、行く先々でこの「医師」を取り上げた。火付け役の新聞でも岡山、三重、奈良、京都、滋賀、福島、北海道、秋田、山形という9つの地方版で記事にして、各地で行なわれた講演会の告知までしてやった。おかげで寄付金がじゃんじゃん集まった。
――という話の流れでなんとなく分かるだろうが、この「医師」は真っ赤なニセモノ。ニューヨーク市立病院どころか、医師免許すら持っていない。おまけに医療施設の計画などない。早い話が、募金詐欺だ。これが分かったのは、最初の記事から4カ月が過ぎてからだった。
その間、男性は数え切れないほど多くのマスコミ記者たちから取材された。にもかかわらず、誰ひとりとして彼のウソを見破ることができなかった。なぜかというと、地方版とはいえ信頼のおける大新聞が「ニューヨーク市立大学の脳神経外科医」と報じたので、“裏取り”を省いてしまったからだ。
つまり、この事件は奇しくもマスコミ記者たちの多くが、「マスコミが紹介しているエラいお医者さんがウソなどつくわけがない」と思い込んでいる実態を露呈させてしまったわけである。
読売はこれまで森口さんの記事を6本書いている。記事にすればするほど「社会的信用」というのは増していく。
自称・医師の自転車行脚の時と同じような“裏取り省略”の構造が、読売新聞や後追いをしたマスコミのなかに生まれてしまった可能性はないか。
森口さんのような人に振り回されないよう、これからのマスコミの記者はぜひマスコミを疑ってもらいたい。もちろん、自分たちの会社も含めてだ。最初は抵抗があるかもしれないが、そんなに心配しなくていい。
みなさんが想像している以上に世の中は、マスコミなど信じていないのだから。
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