JR東日本の復旧工事がなかなか進まない……なぜ?:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
東京駅丸の内駅舎の復原工事費用は約500億円。一方、大震災で不通となっている山田線の復旧費用は約200億円。それぞれは別の枠組みだと承知しているが、JR東日本にとって「復原」と「復興」のバランスはどうなっているか。
復興予算をJR東日本にまわせ
そんな折に、「復興予算不正流用疑惑」という報道が相次いだ。「被災地復興」のための予算が、被災地に特化した予算では全国民の理解を得られぬという理由で「日本復興」にすげ替えられた。そのおかげで、被災地以外の場所にも投じられているという。新たなサイフを見つけて、有象無象がカネをタカリに来ているようだ。
NHKが報じたところでは、東北からはるか離れた沖縄の国道建設だったり、反捕鯨団体対策費だったり、国立競技場補修だったり。復興予算19兆円のうち2兆円以上が被災地以外の205事業に渡るらしい。なかでも岐阜県の工場製造ライン増設費用の補助があきれる。「製品が増産し売り上げが増えれば、仙台の自社販売店で雇用を増やせる」という。従業員数約1000人というこの会社は、仙台でいったい何万人の雇用を生み出すつもりか。
この企業の財務諸表は公開されていないようだが、2010年の売上高は350億円で、サッカーの試合やコンサートなども協賛している。経営にゆとりはありそうだ。いや、赤字企業だったら、復興予算の配分が赤字補てんに回る可能性があり、それこそ大問題だろう。
黒字企業だって復興予算を獲得できる。それなら、JR東日本は復興予算を受け取る資格は十分ではないか。被災した路線を復旧すれば、人の流れが生まれ、駅員や乗員の雇用も発生する。町が賑わう。これは復興予算獲得の理由になるはずだ。
しかもJR東日本はれっきとした(というのもへんだけど)被災企業である。被災したにもかかわらず、電力不足の東京のために自社の発電施設から供給するなど、首都機能の維持に貢献していた。電車の運行を減らし、駅の灯りを減らしてまでも国に貢献した会社である。東北新幹線復旧に全力を傾け、開通すれば大幅な割り引きでボランティアを支援した。JR貨物と連携して燃油の緊急輸送も実施した。そのJR貨物だって被災している。
国鉄だったら当たり前のことを、民間企業になってもこれだけのことをしてくれた。なぜ国はこれらの会社に報いようとしないのか。この国の信義を問いたい。
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