90年代から空洞化は言われているけど……なぜ若手が育っているのか?:アニメビジネスの今・アニメ空洞化論(5/5 ページ)
1990年代から言われているアニメ産業の空洞化。しかし、実際には海外へのアウトソーシングがありながらも、若手は育っている。その背景にはアニメスタジオが研修をしっかり行っていることがあるようだ。
日本のアニメ企業はスタジオが機能している
ここまで「平成22年アニメ産業コア人材育成事業調査」で分かった日本のアニメ企業における人材育成状況を紹介してきたが、日本のアニメ産業ではアニメスタジオでの人材育成がある程度機能していることがお分かりになっただろう。制作の拠点となるアニメスタジオが多く存在しており、そこからしっかりと人材が育っているということである。これは一見当たり前のことのように思えるが、非常に大切なことである。
人材育成については、日本の実写映画業界とアニメ業界を比較するとその差は明らかだ。例えば監督へのルートについて考えてみよう。
アニメ業界では、アニメスタジオに入社すると、まず制作進行となる。アニメスタジオにいることで、先輩の仕事を見たり、ほかの班の仕事を手伝ったりすることで、多くの経験や知識が得られる。その後、適性があると思われれば、制作設定、絵コンテ、演出助手などを経て、テレビシリーズの各話演出・監督となる。そうした経験を何度か経て才能が認められれば、シリーズのチーフディレクターや総監督となるのである。
一方、日本の実写映画業界では、映画会社がさほど映画を制作していないこともあり、現場の人材を採用しているスタジオがほとんどない。つまり、人材育成の場が存在しないのである。もちろん、映画を制作しているプロダクションはあるが、監督以下、脚本や撮影、美術といった現場人材まで抱えている会社は希有である。
そのため、現在の映画監督の多くは自主映画やPFF(ぴあフイルムフェスティバル)、フリーの助監督出身で、そのほかはテレビ局、テレビ制作会社、CF制作会社などの現役、あるいはOBによって占められている。ということは今、日本で映画を制作している監督のほとんどがスタジオの経験がないということなのである。
このように、スタジオが機能していない(というか存在しない)実写映画業界では監督のキャリアが築きにくい。逆に言えば、スタジオでの教育や実地体験を積まなくても、極端な話、自分のお金で映画を撮ってしまえば映画監督になれるということでもある。実際、今の映画監督へのキャリアコースとして一番多いのは自主映画だろう。
しかし、自分で資金を集めて映画を制作するのは難しいため、知識や経験が不足しがちになる。多くの先輩や同僚に囲まれ、日々刺激を受けながらスタジオで体験を積むのとでは知識や経験で大きな差が生じるのは当然だろう。次回記事では、アニメ業界と実写映画業界の差と、なぜアニメーターが育たないという話が出てくるのかという背景について考えていく。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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