“アニメ”化するハリウッド映画:アニメビジネスの今(5/5 ページ)
かつてはスター俳優が軸となって制作されていたハリウッド映画。しかし、収益手法の多様化によって、“アニメ”と似たようなビジネスモデル、作り方になっているのである。
1980年代から本格化した映画のファンタジー化
テレビ放映初期、『スーパージャイアンツ』(1957年)や『月光仮面』(1958年)、『少年ジェット』(1959年)、『ふしぎな少年』(1961年)や『海底人8823』(1960年)といった、SFやファンタジー&アドベンチャー番組が数多く制作された。そして、1963年に日本初のアニメシリーズ『鉄腕アトム』が放映されると一気にそちらにシフトしていく。
日本映画に、ファンタジー系作品が本格的に登場するのは1970年代に入ってからのこと。1974年の邦画興行収入で『日本沈没』が1位、『ノストラダムスの大予言』が2位になり、1978年には『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が1位、『惑星大戦争』が8位、1979年には『銀河鉄道999』が1位、『ルパン三世 カリオストロの城』が9位となる。
1980年代に入るとトップ10入りする作品はさらに増えるが、1984年からはいったん減少し、1988年から再度増加。そして、1991年にアニメを中心としたファンタジー系作品がベスト10の半分を占めるようになる。1993年には7作品が入り、以後はコンスタントに5作品以上ランクインする状態となった。これは1998年以降、『ドラえもん』『名探偵コナン』に『ポケモン』が加わり、毎年ベスト10の常連に軒を連ねる「アニメ御三家」となったことが大きい。それにジブリ作品や特撮作品などが加わることで、ベスト10の半数以上を占めるという状況となったのである。
1993年に邦画興行収入ベスト10のうち7つを占めるに至ったファンタジー系作品だが、その後も年平均5.5作品がランクインするようになっている。
また、1974年に『日本沈没』がファンタジー系作品として初の興収トップをとって以来、2011年までの38年の間にファンタジー系作品は22回トップをとっている。特に、1990年以降は23年間で16回も首位となっているのだ。また、1974年以降首位になったファンタジー系作品22作品の内わけは、実写特撮4作品、アニメ18作品と8割強がアニメで、アニメがファンタジー系作品を押し上げる原動力となっていることが分かる。
つまり今、ハリウッドでメインストリームとなっている映画のファンタジー化&キャラクター化はいち早く日本で起こっていたと言える。その中心にあるのがアニメである。
しかし、ファンタジー&キャラクターといえば、その元祖はディズニー。その意味で現在のハリウッド映画は「ディズニー化している」とも言えるのだが、次回はファンタジーの総本家であるディズニーについて考えてみたい。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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