米国の政治家はどのようにイメージ作りしているのか――『完璧なイメージ』著者に聞く(3/3 ページ)
衆議院総選挙の投票日まであと少しとなったが、多くの人の支持を集めなければならない政治家にとって重要なのがイメージ戦略。映像先進国である米国の政治家はどのようなことを行っているのだろうか。『完璧なイメージ: 映像メディアはいかに社会を変えるか』の著者であるキク・アダット氏に尋ねた。
押し付けられたイメージへの反発
――今回の大統領選挙で一般市民の映像が政治に影響を与えたということはありますか。
キク 映像ではなく、録音ですがあります。
民主党候補のオバマは「man of the people(国民の味方)」という発言があるように中流階級のために戦うことをアピールしていました。それに対して、共和党候補のロムニーは大金持ちのために戦う政治家、ということがあるイベントの参加者が携帯電話で録音した内容で印象付けられました。
イベントでは「米国民の47%が連邦所得税を払っておらず、政府に依存するのが当然だと思っている層だ」と語っているのですが、これによってその47%の国民を敵にしてしまったのです。彼らにとって「自分たちのために働いてくれる政治家ではなくて、大金持ちのために働く政治家だ」ということですね。
ある1人の一般市民が携帯電話で録音したものなのですが、メディアに漏れて、繰り返し繰り返し放映されて、これによって落選した可能性も高かったのではないでしょうか。
米国は経済状況がすごく悪いので、オバマの再選が危ぶまれていました。しかし、この録音によって、ロムニーが大金持ちのための政治家であり、中流階級のための政治家はオバマであるというイメージがすごく強くなったのです。これは本当にオバマの再選を助けましたね。
――米国民はある意味、イメージを押しつけられているようにも思えるのですが、それに対する反発のようなものは起こっていますか。
キク もちろん、そういう作られたイメージに反発したいという気持ちはわいてきますよね。それはメディアだけでなく、普通の国民もそうなんです。
一つの手として、ある候補者のスタッフは、対立候補の様子を常時撮影するスタッフを雇っています。間違えて失言などをする映像を撮ろうというわけです。
将来の大統領候補と言われた上院議員がいました。インド系移民の若者がその上院議員のイベントを撮影していたところ、上院議員は若者を指して人種差別的な発言をしたんです。それはとても印象的なものだったので、すぐにメディアに取り上げられて、何回も繰り返して放送されて有名になったので、もう彼は大統領にはなれないでしょう。
米国の政治家の中でイメージ作りが大事なものになっていて、自分のイメージを何とかコントロールしようとする傾向が強くなっています。そのために失言を恐れるので、メディアは国民が答えを聞きたいような重要な質問を尋ねる機会が少なくなっています。それは悪い傾向ではありますね。
――一部のイメージだけに左右されないように、全部を見ようといった傾向はないのですか。日本だとメディアは会見の一部のコメントだけを使って印象を操作しているという声もあって、野田首相や電力会社などの会見をすべて流すネット生中継を見る人も増えています。
キク そういう状況は米国でも一緒ですね。インターネットのほうが、平等で民主的な場所になっています。もし政治家のスピーチをテレビでは全部見られなくても、自分の好きな時にインターネットですべて見ることができます。
今後についても、インターネットを通じて、もっとも民主的な話し合いが実現すると考えています。ただ、もちろん事実ではない写真や映像が流れることもあるので、そういうことには注意しないといけないですが。
関連記事
- レディー・ガガのチケットと病院の予約券、許せるダフ屋は?――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」
米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、東京国際フォーラムで5000人を前に特別講義を行った。テーマは「ここから、はじまる。民主主義の逆襲」。受講者に語りかけながら議論を促すおなじみのスタイルを取ったサンデル氏。これから数回にわたってその模様をお伝えする。 - マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきた
ハーバード大で政治哲学を教えるサンデル教授が8月末に来日、東京で2回の“出張講義”を行った。学生との対話形式で進められる講義にはブロガー・小飼弾氏も参戦。2時間の「白熱教室」とはどのような内容だったのか? 本記事で詳しくお伝えしよう。 - “ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?
ネットを中心とした草の根の活動を武器にして米国大統領に当選したバラク・オバマ氏。一方、日本では公職選挙法の制限から、ネットで自由な政治活動が行えない状況にある。「インターネットが選挙を変える? 〜 Internet CHANGEs election 〜」では、さまざまな分野の専門家が“ネットと政治”についての知見を語った。前編では第1部の「米国事例紹介と日本の公職選挙法の解説」について詳細にお伝えする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.