もうひとつの福島――「只見線」を忘れてはいけない:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
事故や災害で鉄道路線が不通になった場合、復旧や廃止の動きが報じられたり、鉄道会社から今後の見通しなどが発表される。しかし鉄道会社からの発表がほとんどなく、報道もあまりされない区間がある。それは……。
原子力も福島、水力も福島
この水害に関しては豪雨が原因ではあるものの、上流にあるダムの放水量が被害を拡大したという指摘がある。只見川の上流には、電源開発と東北電力が10基のダムを建設していた。それらはすべて発電用ダムで、治水ダムではなかった。水力発電のダムは、作りっぱなしでは駄目で、湖底に堆積していく土砂を取り除かないと貯水量が減り、すぐに満水になってしまう。この豪雨では、ダムの水が溢れそうになったため放水したところ、洪水を引き起こしたという。
そうだとしたら、なおのこと復旧対処は遅過ぎないか。もうすぐ災害から1年半。季節が一巡している。つまり、この間に同じ規模の豪雨があったかもしれない。それを金山町に指摘すると「現在は放水の管理が徹底され、同じような水量を放出しない約束になっている」という。
「もう同じような水害は起きない」という前提なら、JR東日本は現状の場所に鉄橋を復旧させてもよさそうだ。ただし、ここから先は金山町だけではどうにもならない。只見線に関してはJR東日本と行政の動きを待つしかないらしい。
地元紙の福島民報は論説記事で「沿線地域が多額の費用に臆してJRへの働き掛けを遠慮すれば、全線復旧は遠ざかるばかりだ。声を大にして運転再開を求めていくべきだろう」と呼びかける。福島も含めて、厳しい冬を耐えて暮らしてきた人々は、どこか遠慮がちかもしれない。只見線沿線の人々は辛い思いをしている。しかし「沿岸にはもっと辛い思いをしている人々がいる」と思い、我慢し続けているのかもしれない。
福島県にある水力発電も、原子力発電も、地元のためではなく、電力大消費地の首都圏や東北の都市に電気を送っている。それらの発電所が起こした災害に、県民は耐えている。その思いに、電気を使ってきた私たちはどう応えたらいいのだろう。“乗り鉄”としては、只見線が復旧したらぜひ乗りに行きたい。金山町など沿線を訪れたい。そんな約束は彼らを元気づけてくれるのだろうか。
いま只見線と沿線の地域に必要な物は、大量に重機と作業員を投入するためのカネと、それらを動かす強力なリーダーだ。新政権を担う人々に、原子力発電地域と同じくらい、水力発電地域のことも気にかけてほしいと思う。
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