日本企業が復活するために必要なもの:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
今あるものを改善していくのは得意な日本のメーカー。しかし、イノベーティブな製品を作っていくためには、どうすればいいのだろうか。
CESでも影の主役はアップルだった。故スティーブ・ジョブズ氏が次はテレビの世界をアッと言わせるようなものを開発するとしていたからである。アップルがどのような提案をするのか、それによってテレビの方向性が変わってくる。おそらくその時には、テレビは従来のテレビではないのだろう。「テレビでインターネットができる」という考え方ではなく、むしろ「インターネットを使う端末の一つがテレビ」という位置づけだろうか。
スマートフォンでも、日本の端末メーカーは「インターネットができる電話機」という考え方が強かったという感じがする。しかしスマートフォンの実体は「電話ができるコンピュータ」だ。電話の進化形ではなく、PCの進化形である。「高い電話機」ではなく「安いPC」と言い換えてもいい。そうなるとポイントは、処理能力、PCとしての安定性、そして使い勝手の良さだ。その点では、やはりアップルに先を越されている。
日本のメーカーは、今あるものを、あるいは現在の生産システムをどんどん改良していくのはとても得意だ。トヨタの生産方式は、本家は米国だがそのお株を奪って、今や「カイゼン」という言葉が世界中で使われるようになった。少品種大量生産方式で始まった自動車の生産ラインを、多品種少量生産方式に切り替えたのも日本のメーカーである。そのおかげでさまざまな車を市場に送り出すことが可能になった。
しかし、イノベーションの方向は一方向だけではない。つまり従来の発想を壊すところに革新があるとも言えるだろう。まったくベクトルの違う発想は、日本のメーカーが割に不得意とするところである。もし日本企業があらゆる面、製品開発、組織運営、販売手法などでイノベーティブでありたいと思うなら、おそらくこれまでの意思決定システムを変えなければならないのだろうと思う。過去の経験に基づくトップの判断は、右肩上がりの時代には有効かもしれないが、構造的に右肩下がりの時代では時代後れかもしれないからだ。
ソニーのウォークマン開発チームも、当時、社内では冷たい目で見られていた。その発想が正しかったことは商品が売れて初めて証明された。そんなものだと思う。だから何はともあれまずは変えてみることから始まる、GEを革新的な企業に変貌させたジャック・ウェルチ氏はそう言った。それが日本企業にとって(ひょっとすると日本という国にとっても)生き残る大事な道ではないだろうか。
そして日本企業にとって幸いなことに、日本の消費者は世界でも最も洗練された消費者だ。逆に言えば、日本で成功すれば、世界で通用する。そう考えている世界の経営者も少なくはない。後、必要なことは過去の成功体験を捨てて、たこつぼから出てくることである。
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