「ソースコード」「デリバティブ」――この程度の専門用語も説明できない、大手メディアの脆弱性:相場英雄の時事日想(3/3 ページ)
PC遠隔操作事件の報道の中で、大手メディアが容疑者逮捕の決め手となった要因として「ソースコード」という言葉を誤解したまま報じた。なぜこうしたことが起きたのか。筆者の相場氏は「単純エラーの連続だったのではないか」と見ている。
一方の相対型は、文字通り一対一の契約。プロ同士の取引も多いが、金融機関のプロと一般事業法人のような素人との間で結ばれるケースも多数にのぼる。
リスクの所在やどの程度損失が膨らむ可能性があるのかを熟知せず、契約してしまうケースも多々ある。これが一般企業の財務に潜り込み、ある日いきなり契約相手の金融機関に巨額の支払いを迫られ、企業が突然死する、といったケースがあるのだ。
相対型全てが危ういと言っているわけではない。だが、2011年に表面化したオリンパスの巨額損失飛ばし問題や、他の不正会計事件の背後にこの相対型が暗躍したのは事実。
ただ、市場型・相対型の区別をごっちゃにして、「デリバティブは全部悪者」とする風潮は私が通信社に在籍していた頃から根強かったのだ。換言すれば、市場で取引され、時に金融商品や投資の保険的な位置づけとして使われる「市場型」も丸ごと悪者という扱いだったのだ。担当記者やデスクが短期間で配置替えとなるため、専門知識を蓄積する機能がマスコミ界に足りない、という構造的な問題が今も昔も横たわっていると言い換えてもよい。
先に触れた「ソースコード」にしても、経済面でお馴染みの「デリバティブ」にせよ、その道のプロが扱う用語だったり、商品だったりする。だが、世情が経済の仕組みが複雑になるにつれ、こうした専門用語そのものが一般読者や視聴者向けのニュース素材となってしまったのだ。
先の項の最後で、「システム部門の関係者に聞けばすむ話」と触れたが、今後同様のケースが増えていくことは間違いない。人事異動の頻度が高いという構造的な欠陥は、実は簡単な解決方法がある。「聞くは一時の……」という諺(ことわざ)がある。聞くという記者やデスクの仕事の本質を見つめ直せばよいだけなのだ。メディア関係者にはこの諺を今一度かみ締めてもらいたい。
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