TPP参加の意義はどこにあるのか?:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
日米首脳会談で、TPPの交渉参加問題で聖域なき関税撤廃を否定する言質を引き出した安倍首相。日本がTPPに参加する意義を改めて考えてみた。
すでに森元首相がプーチン大統領を訪ねた。安倍首相が訪ロする地ならしということだが、最も注目されるのは、北方4島の一括返還にこだわらないという下地を作ったことだと考える。プーチン大統領が言った「引き分け」という言葉の解釈で、森元首相は「4島一括返還ならロシアの負け、返還がなければ日本の負けということになる」と語り、引き分けはその中間という考え方を示した。
一方、ロシア側は、エネルギーの分野で日本との関係を良好に保ちたいという思惑がある。これまでロシアは欧州にエネルギーを売ってきた。しかし欧州は今以上、ロシア依存を深めることを警戒している。ロシアは欧州に売れなければ、あとは東側で売るしかない。相手は中国と日本だ。中国はもちろんロシアのエネルギーを買うだろうが、逆にロシアは中国だけに売ることを警戒する。「中国依存」を高めることになるからだ。だから日本にも売りたい。LNGという形でも、あるいは電力という形でもいいから、日本との取引を成立させたいと考えている。
日本とロシアが接近することは、中国にとっては警戒すべきことだ。なぜなら今は日本のエネルギーはほぼすべてが南シナ海を通過する。もしロシアや米国からLNGなどが入ってくることになると、中国がエネルギーで日本に圧力をかけることが難しくなるからだ。もちろん露骨に圧力をかけてくることはないとしても、エネルギーのシーレーンをいつでも中国人民解放軍が押さえられるという状況は、日本にとって望ましいものではない。
ロシアとの交渉で1つの問題は、領土問題をあくまでも先に片付けなければならないかどうかということだ。日本とロシアは第二次大戦後の平和条約もまだ締結していない。北方4島の問題がある限り、平和条約を結ばないという姿勢を日本が頑なにとってきたからである。しかし尖閣でも明らかなように、領土問題は「実効支配」している側が圧倒的に強い。それをひっくり返すのは、難しいのである。だとすれば、むしろどうやって実利を得るかと考えるほうが打開の糸口になりえると思う。しかも現時点では、日本とロシアには共通の利益が(そして共通の仮想敵も)あるように見える。
TPP交渉への参加表明、そしてロシアとの取引、これをまとめることができれば、安倍政権の基盤はかなり固いものになるはずだ。そして世界の指導者はようやく日本の首相の名前を覚えられるかもしれない。
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