「黄砂じゃなくて煙霧でした」報道の正しい読み方:窪田順生の時事日想(4/4 ページ)
この週末、都内の空は「茶色のもや」がかかったような色をしていた。空を見て「黄砂ではないか」との指摘があったが、気象庁は「煙霧」であると発表。確かにあれは「煙霧」だったが、PM2.5を大量に含んだ“汚れた砂けむり”だったのではないか。
全体像が見えにくいワケ
そう言っても釈然としない人もいるだろう。あの煙霧にPM2.5が含まれているかどうかの確証がないにしても、東京都の測定局が高い数値を示したのも「事実」だ。せめて注意を呼びかけてくれたら、急いでマスクを買ってきたのに――。
気持ちは分かるが、気象庁はそんな注意喚起はできない。なぜなら、“セクショナリズム”があるからだ。
実は黄砂や煙霧を観測しているのは気象庁。ご存じのように国土交通省の外局だ。一方、PM2.5の数値を見て対策を高じているのは環境省。霞ヶ関の論理で言えば、実はこれはかなりやっかいな問題なのだ。
3月8日の共同電がそれを雄弁に語っている。気象庁が西日本で黄砂を観測したということを伝えているのだが、そこにこんな一文が付け加えられている。
ただ、黄砂とともにPM2.5が飛来しているかどうかは、気象庁では確認できないという。
これだけ読むと、なんだか能なし集団みたいな印象を受けるが、そうではない。PM2.5を調べて発表するのは環境省の役割。黄砂とともに飛来しているかを調べたら、彼らの「職域」を侵犯してしまう。つまり、ここでは「確認できない」ではなく、「確認してはいけない」が正しいのだ。
そんなくだらないパワーゲームを被災地でされたら困る、ということでつくられたのが復興庁だが、相変わらず除染は環境省で、原発の賠償は文科省、避難区域の見直しは経産省がどうぞ、なんてことをやっている。
あの未曾有の災害で、人を助けるためには、なによりも「スピード」が命だということを日本中が思い知ったはずだ。
いい加減本気になってくれないと、亡くなった人たちにあの世で顔向けできない。
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