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コラム

隠れ資産の有効活用は実現できるのか――貨物線旅客化の期待と課題杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)

東急東横線渋谷駅の地下化をはじめ、京王線、小田急線、京急線の立体交差など、鉄道路線網の整備に終わりはない。そして次の新路線開拓として「貨物線の旅客化」がある。期待が高まる一方で、貨物路線の乱開発は鉄道全体の存在を脅かしかねない。

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杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 3月30日、東京近郊の貨物路線を特急電車が走った。JR東日本の旅行事業部門「びゅう」が企画したツアー「ぐるり貨物線大宮号」だ。私の記憶では2008年から、このような貨物線乗車ツアーが何度か開催されている。普段は乗れない貨物線用路線の景色を眺められるとあって鉄道ファンに人気がある。今回は品川駅から出発し、東海道本線の貨物用支線「高島線」や、東海道本線と並列する貨物列車用線路、武蔵野線のうち、旅客化されていない梶が谷付近を経由して大宮がゴールだった。


「ぐるり貨物線大宮号」

 貨物線の運行はもちろんのこと、いまや希少価値となった国鉄時代の電車「183系」に乗れる点も魅力のひとつだ。183系はこの3月にJR西日本から引退したばかり。ちょっとマニアックな話をすると、JR西日本の183系は485系からの改造車だったから、いまや生粋の183系はJR東日本しか残っていない。

 貨物線ツアーは鉄道ビジネスの視点からも興味深い。今回のツアーの会費は1人当たり6500円。ここには解散駅となった大宮駅から鉄道博物館への費用が含まれていた。鉄道ファンとしては、貨物線乗車と鉄道博物館で1日を楽しめて6500円はとってもオトクであろう。ここには、大宮駅から鉄道博物館大成駅までのニューシャトルの往復料金360円、鉄道博物館の入場料800円(団体扱)、鉄道博物館ミュージアムショップの1000円分のクーポン券、合計2160円が含まれる。つまり、貨物線乗車の実質的な料金は4340円だった。

 募集定員は300名で、ざっと見たところほぼ満席。4340円×300名として計算すると、JR東日本にとっては130万円ほどの臨時収入だ。先の鉄道博物館関連も売り上げに含めると、総売上は195万円となる。本音としてはもう少しほしいかもしれない。しかし、遊休車両を使い、販売窓口はインターネットのみ。プレスリリースを出せば鉄道ファン向けメディアが掲載してくれるので、宣伝費用はほとんどかからない。運行頻度の少ない貨物線で旅客列車を走らせるわけだから、遊休資産を使った新たな収益手段となっている。JR東日本は、鉄道ファンから直接お金をいただくビジネスに着手している。賢い商売である。

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