札幌市電「400メートルの延伸」がもたらす大きなメリット:杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)
国土交通省北海道運輸局は札幌市から申請された路面電車延伸計画を認可した。西4丁目とすすきの電停を結ぶ400メートルを整備し、中間に停留所をひとつ新設する。短い延伸だが意味は大きい。これで札幌市電が環状線となるからだ。
札幌市電の環状化で輸送力の波動対応が可能になる
札幌市電の場合、全線が複線区間だが、両端の西4丁目電停とすすきの電停は線路が1本しかない。したがって「駅に電車が到着し、乗客が全て降り、運転士が移動し、乗客をすべて乗せる」という一連の動作が終わるまで、次の電車は駅に到着できない。そのため、短い電車1両で、本数の多い区間で3分〜4分の運行間隔が必要だ。
実際は交通状況によって運行間隔は偏る。2台以上の続行運転もあるだろう。しかし、それでも折り返しのために3分以上かかるから、続行運転しているにもかかわらず、終点で後続電車が3分以上待たされるという状況が発生しているはずだ。あるいは、途中の電停で時間調整のため3分以上停車する場合もあるだろう。
結局、通勤時間帯で乗客が急いでいても、折り返しの3分に制約されてしまう。こうなると、続行運転で電車が来た場合、急いでいる乗客は前の電車に集中する。さらに電車が遅れる。後続がつかえる……となっていく。
この状態は環状線化で解消される。折り返しが必要ないから、運行間隔の3分の縛りはなくなる。路面電車は続行運転可能なため、1分間隔も可能。30秒間隔もできそうだが、乗降時間があるのでさすがにそれは無理か。それにしても、400メートルの延伸で環状線になれば、いまより運行間隔は短縮でき、増発も容易になる。
札幌市では環状線化の次の段階として、路面電車の札幌駅前乗り入れを検討している。ただし、駅前通りを札幌駅まで伸ばすとなると、終点の札幌駅前電停で折り返しが発生する。しかし、駅前に小さなループ線を作ったり、隣の道路を使えば環状化できる。それだけの輸送量と運行頻度を期待するなら、ここは「環状」にこだわったほうがよさそうだ。
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