神田エリアの再開発、「ワテラス」に見る地域コミュニティの再生ストーリー(4/4 ページ)
長らく地域コミュニティの核として機能していた小学校跡に建てられた高層ビル。神田淡路町の再開発プロジェクトは、地域住民による活動が発端となって始動した。
淡路町エリアマネジメントが目指す街作りとは?
ちなみに学生用マンションの区域は、ワテラスアネックスの最上部である14階と15階に設けられており、中央部の吹き抜けをぐるりと取り囲む格好で部屋が並んでいる。共用庭やラウンジも設けられており、入居する学生同士の交流も促進されるよう配慮されている。
この場所であらためて堀田さんに、ワテラスと地元活性化に懸ける思いについて話を聞いた。ちなみにご存じの方も多いと思うが、堀田さんが当主を務める「かんだやぶそば」は、2013年2月に発生した火災により店舗を失ったばかりだ。
──お店再建の見通しは、現在どうなっているのでしょうか。
堀田さん: 思っていたより火災の影響が大きかったため、店舗は解体せざるを得ませんでした。しかし、来年の今ごろまでには何とか営業を再開できないかと、現在検討を進めているところです。
──多くの方々が、営業再開を心待ちにしているかと思います。ところで、そもそも今回、エリアマネジメントに取り組まれるきっかけは一体何だったのでしょうか。
堀田さん: 単に施設の器だけを作っても、中身を入れなければ単なる開発で終わってしまいます。実は、かつて行われた淡路小学校の統廃合の際にも、新しい学校を作って終わりではなく、その学校をいかに運営していくかが重要だと考えて、新たに組織を立ち上げ、地域の人々に全面的に参画してもらいました。そのときの活動は現在、着実に実を結んでいます。こうした体験もあって、今回のワテラスに関しても、開発計画の初期段階から「中身をどう入れるのか?」という議論を、地域の人々や関係各所と一緒に進めてきました。
──これだけ大規模な再開発となると、地元住民の方々の意見を集約するのは大変だったのではないかと想像するのですが。
堀田さん: 淡路小学校が100周年を迎えた1976年の段階で、すでに地域の将来を危ぶむ声が多く上がっていましたから、地域活性化の活動自体は今回の再開発よりはるか前、30年以上前から始めていたのです。そのころから地域住民同士で議論を深めてきましたから、今回のワテラスの話が持ち上がった際にも、「皆で住み残れる再開発にしよう」という地元の意見を集約して、地権者の人々がそのまま新施設に移住する方針で速やかに合意が取れました。そういう意味では、非常に望ましい形での再開発になったのではないかと考えています。
──ワテラスは「神田淡路地域の人情・情緒を引き継ぐ」というコンセプトを掲げていますが、そもそもこの地域には伝統的にどのような文化が根付いているのでしょうか。
堀田さん: もともと淡路町は、明治維新以前は武家町でしたので、昔からの町人街だった周辺地域とは少し違う風土がありました。淡路小学校が「下町の学習院」と呼ばれていたのは、そうしたお屋敷町としての伝統が残っていたからだと思います。「下町の江戸っ子」というイメージとは、少し違う文化を持っているのが淡路町という街なんですね。
──そうした淡路町ならではの伝統に、今回ワテラスができたことで新たな風が入るわけですね。
堀田さん: そうですね。現在、淡路町や千代田区に限らず、都心のあらゆる地域で、集合住宅の住民がなかなか地元コミュニティに溶け込めないという課題を抱えています。そうした課題をブレークスルーするために、私たちはワテラスコモンを中心としたエリアマネジメントの活動を促進することで、住民や学生が部屋にこもってしまうのではなく、街の中に出て行って親交を深める機会を増やしていきたいと考えています。
──今回ワテラスに、安い家賃の学生用マンションを設けたのも、そうした考えによるものなのですね。
堀田さん: その通りです。神田は昔から学生の街と呼ばれてきましたが、現状はといえば学生がそう気軽に住める街ではなくなってしまっています。そこで、こうした状況に風穴を開けるとともに、学生たちに地元と交われる機会を提供することで、学生たち自身の学生生活も豊かにできるのではないかと考えたのです。
──なるほど。では、そうしたエリアマネジメント活動が実を結んだ結果、20年後の神田淡路町はどのような街になっていると想像されていますか。
堀田さん: 私が子どもだったころの淡路町はまだ自動車もほとんど走っておらず、路地で子どもたちが自由に遊んでいました。今から20年後には、こうした街の姿が戻ってくるのではないかと想像しています。というのは、ワテラス周辺は再開発に伴いクルマの交通量も増えるかもしれませんが、通りを隔てた地域ではむしろ昔ながらの街並みを残し、クルマの乗り入れも抑制した上で、街歩きが楽しくなるような地区計画を練っています。こうした計画を新住民にも理解してもらって、積極的に街に出て、街とともに生き生きと生活してもらいたい。20年後に、そんなふうに淡路町が成長していればいいなと考えています。
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