地域エゴだけで決めていいのか? 日本の骨格、北陸新幹線のルート:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
北陸新幹線の金沢延伸開業まで2年を切った。福井駅の先、敦賀までは2025年度開業目標となっている。しかし、その先の大阪まではルートが決まっていない。小浜ルート、湖西線ルート、米原ルートのどれがいいか。北陸、関西、関東の地域エゴだけで決めてはいけない。
米原ルートは刹那的すぎる
3案のメリット、デメリットについて、関西広域連合が比較している。敦賀―大阪間の所要時間について、小浜ルートは33分、米原乗り換えルートは50分。現在の在来線特急「サンダーバード」と比較して、小浜ルートは42分の短縮が可能。しかし米原乗り換えの場合、25分しか短縮できない。乗り換えの所要時間を5分で試算しているけれど、乗り換えの面倒は5分以上に大きい。一方、小浜ルートのメリットは所要時間が最短であり、乗り換えも不要だ。
関西広域連合が推す米原乗り換え案は、いつできるか分からない小浜ルートよりも現実的だ。関西の資本力が積極的に関与すれば、一気に建設に傾きそうである。3ルート案というけれど、関西広域連合のとりまとめによって、事実上、小浜直通ルート対米原乗り換えルートという図式になりつつある。
確かに米原乗り換えルートは現実的だ。名古屋も視野に入れ、京都も通るから利用者数も多く見込める。採算性も高いだろう。しかし、経済性のメリットしか見いだせないとも言える。そもそも、関西圏や北陸に生活する人々が、本当に乗り換えルートを望んでいるのかという現実的な視点が抜けている。それが本当に便利かどうか、長期的視点で、国家の骨格たる役目を果たせるのか。そこに検討の余地がある。
関西広域連合も指摘しているように、小浜ルートには「日本海国土軸の形成に寄与」「東京大阪間の二重系統を完全に構築」「東海道新幹線との連携不要」というメリットがある。このメリットは米原乗り換え案にはない。しかし、この3要素こそが北陸新幹線の本来の役目であり、東京と大阪の2大都市を基軸にした日本の国土形成に必要である。
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