企業帝国の弱点とは? そこで働く人たちの悲哀:小飼弾×松井博、どこへ行く? 帝国化していく企業(2)(1/5 ページ)
莫大な資産を蓄え、世界を支配しつつように見える企業帝国。一方で、社会福祉の増大にあえぎ、弱体する国家はこうした企業に対して何ができるのか。一方で、帝国の中枢で働く幹部は果たして「幸せ」なのか。そして帝国にあった「意外な弱点」とは?
どこへ行く? 帝国化していく企業:
アップルやマクドナルド、グーグルなどのグローバル企業は、いまや落ち目になった国家を尻目にどんどん強大になっている。低税率国の子会社を使った租税回避を行っていたり、低賃金で労働者を搾取し、法律を自分の都合のいいように変えるなど、やりたい放題やっているように見える。
一方で、先進国の中間層は没落し、多くの人がグローバル化の名目のもと、時給で働く労働力として使われ始めている。民主主義はもはや機能していないのだろうか。人々が幸福になれる未来は来るのか。
書評を中心としたブログを運営しアルファブロガーとして知られる元技術者の小飼弾さんと、元アップル管理職の松井博さんが語り合った。全7回でお送りする。
→アップルやマクドナルドは、本当に“悪の帝国”なのか?(2)
→本記事、第2回
プロフィール:
小飼弾(こがい・だん)
東京都出身。1991年12月米カリフォルニア州立大学バークレー校中退。その後帰国し、ネットワーク技術者として活躍。1996年ディーエイエヌを設立し、代表取締役に就任(現任)。1999年オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)の取締役に就任するも、2001年に同社取締役退任。著書に『小飼弾の「仕組み」進化論』(日本実業出版社)、『空気を読むな、本を読め。小飼弾の頭が強くなる読書法』(イースト・プレス)ほか。Twitterアカウントは「@dankogai」。
松井博(まつい・ひろし)
神奈川県出身。沖電気工業株式会社、アップルジャパン株式会社を経て、2002年に米国アップル本社の開発本部に移籍。iPodやマッキントッシュなどのハードウエア製品の品質保証部のシニアマネージャーとして勤務。2009年に同社退職。ブログ『まつひろのガレージライフ』が好評を博し、著書『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」する』(アスキー新書)を出版。Twitterアカウントは「@Matsuhiro」
グローバル企業はどの国に税金を払うべきか
松井:僕が気になっているのは、企業の政治への介入があまりにもスゴいことですね。政治にお金がかかりすぎるんです。
小飼:いまの企業帝国は教育と福祉は国家に丸投げですよね。そこが本物の帝国と企業帝国の違いです。そういった意味で、企業帝国は“寄生虫”なんですよ。
松井:一方で会社が世界のどこにでも行ってしまう時代じゃないですか。すると、企業は人材がいるところに支社をつくるようになる。例えばシリコンバレーにはIT関係の人が集まり、人材を雇いやすいからIT企業が来る。カリフォルニア州政府はそこを理解していて、地元の子どもたちへの教育に力を入れて、スタンフォード大学に入れさせようとしているんですよ。
小飼:でも企業が教育コストを出すわけじゃないんだよね。
松井:そう。で、国家や州政府はお金がない。なぜかというと、「帝国」はアイルランドとかに会社をつくって、そっちに利益を集めてるから、カリフォルニア州には税金をほとんど払ってくれないんです。
小飼:従業員の所得税など逃れようがないものもありますが、それだけだといまの福祉は足りないんですね。
松井:ディアンザカレッジという大学がアップルのそばにあるんですが、ここの学長が卒業式のときに「アップルは学校のすぐ目の前にあってウチの学生も入るのだから、もっとカリフォルニア州に税金を払え」と批判してました。この発言、物議を醸したんだけど、僕は「いいこと言うなあ」と思いましたね。
小飼:企業帝国が税金をどこに支払うべきかというのは、ものすごくいい質問です。結局、どこの企業も本業の次くらいに節税を一生懸命やるんです。で、結局内部留保という形でお金が溜まってしまい、株主に還元しようと思うと税金をいっぱい取られるので、「仕方がないから社債でも発行するか」って話になる。これって、なんかオカシイですよね。
松井:オカシイですよ。もっとシステムが簡単でいいのではないでしょうか。複雑になりすぎている。
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