企業帝国の弱点とは? そこで働く人たちの悲哀:小飼弾×松井博、どこへ行く? 帝国化していく企業(2)(3/5 ページ)
莫大な資産を蓄え、世界を支配しつつように見える企業帝国。一方で、社会福祉の増大にあえぎ、弱体する国家はこうした企業に対して何ができるのか。一方で、帝国の中枢で働く幹部は果たして「幸せ」なのか。そして帝国にあった「意外な弱点」とは?
国家の役割が地方都市化している
松井:僕も同じことを考えたことがありますが、いまの状況を見るとできっこない。また、それをやるのが果たしていいのかという問題がある。
小飼:そう。果たしてそれが人類のリスクヘッジになるかですよね。それって多様性の究極的な喪失じゃないですか。そこに瑕疵(かし)があった場合、全人類がやられてしまう危険がある。
そういった意味で、冷戦っていま考えると、決して悪い状態とは言い切れなかったなと思うんです。冷戦が盛んなころ、タックスヘイブンと言えば便宜置籍船(べんぎちせきせん)くらいで、利用していたのは1000隻ほどでした。
松井:「帝国が税金逃れをしている」と言われていますが、小さい会社も同じですよね。いまや従業員が10人の会社でも、シンガポールに法人をつくろうかって話になっている。例えば、日本でプログラマーを1人雇うと月40万円ほどかかりますが、カンボジアでは2万円ほどで済む、という話もある。中小企業から見ても、国家の役割が地方都市化しているなあと思いますね。
小飼:確かに。
松井:それから、この本(『企業が「帝国化」する』)を書いているときに、エクソンモービルなどが、自社の石油プラントを守るためにその国の軍隊を使っているのが面白いと思ったんですよ。軍が会社のロゴが入った制服を着ている……というウソみたいな話。
これって日本に大きな企業が入って来て、「石油プラントを守りたいから自衛隊を貸してくれ」って言うのと同じ話ですよね。
小飼:自衛隊は「日本株式会社」にとってのセコムみたいなもんですよね。実際に警備活動に使われてるし。
松井:本には紙面の都合で書けなかったのですが、ニカラグアの軍隊にはボロい船しかないんです。だからエクソンモービルが、海上プラントの監視船を国に買ってあげているんですよ。国側も、船を買ってもらえてうれしいわけです。これって、やっぱりオカシイ。
それに不満な人ももちろんいて、石油会社の外国人の社員を誘拐している。こうした犯罪も外貨獲得ビジネスの様相を呈していて、身代金を払えばちゃんと生きて帰ってくる。
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