“最高の授業”は世界に届けられるのか? 課題はマネタイズ:仕事をしたら“なんちゃってグローバル君”がいた(5)(1/5 ページ)
教師不足に悩む途上国に、DVDなどを使って“最高の授業”を届ける――。そんなプロジェクトが進んでいるが、課題はマネタイズ。安定的に続けていくためには、どのような工夫が必要なのだろうか。
仕事をしたら“なんちゃってグローバル君”がいた:
三田紀房さんの漫画『ドラゴン桜』(講談社)をご存じだろうか。元暴走族の教師が、落ちこぼれが集まった高校の生徒に受験勉強法を教え、東京大学に合格させようとするストーリーだ。
それを世界5大陸で挑戦しようとしている男がいる。税所篤快(さいしょ・あつよし)さん――。早稲田大学教育学部の4年生……とはいっても、休学3年目の“7年生”だ。
彼は大学を休んで、「5大陸『ドラゴン桜』」実現を目指して、世界を駆け回っている。とはいっても、漫画のように生徒は落ちこぼれではない。むしろ優秀だが、学ぶ機会に恵まれていない生徒が相手だ。途上国の多くは、家が貧しかったり、教師が不足している。そんな理由で、十分な教育を受けることができず、大学をあきらめる学生が少なくない。
収入による教育格差、その先の就職格差を変えたい――。税所さんはそうした負のスパイラルを断ち切るために、バングラディッシュの予備校でトップレベルの教師の授業をDVDに収録して、農村の高校生に届けている。
この試みは、初年度からうまくいった。「東洋のオックスフォード大学」と呼ばれる名門大学に合格者を出すことに。彼はバングラディッシュだけで終わらせるのはもったいないと考え、2012年から世界中で展開することにした。現在は、アフリカのルワンダ、中東のヨルダンとガザ、フィリピン、ベトナム、ハンガリー、インドネシに広がりを見せている。
まだ20代半ばの大学生が、なぜこのようなイノベーションを起こすことができたのだろうか。またグローバル社会で戦う上で、なにを大切にしているのだろうか。話を聞いた。
一流の先生は、その国にとっての“公共財”
土肥:税所さんはまだ24歳ですが、「教育界に革命を起こし、世界を変えたい」という思いから、これまでさまざまな活動をされてきました。途上国では教師が不足していることが原因で、学ぶ機会を失っている学生がいる。この問題点を見つけ、現地の優秀な教師の授業風景を撮影し、DVDに収録。その映像を使って、農村にいる高校生に“最高の授業”を届けられた。
そんなアイデアはどこから? と思ったら、予備校「東進ハイスクール」でやっていることをパクっただけ。や、失礼、真似ただけ(笑)。スタートは見よう見まねだったのに、やっていくうちにその国にあった形でカスタマイズされていった。いまでは「五大陸『ドラゴン桜』」と称して、世界中に存在する教育問題を解決しようとされている。しかし、大きな課題がありますよね。それはマネタイズの問題。収益性の基盤がまだまだ弱いのではないでしょうか?
税所:ですね。
土肥:税所さんはグラミン銀行(貧しい人々を対象に小口融資で貧困の解決を目指している)の取り組みに感動されて、現地に足を運んでインターンを経験された。そのグラミン銀行はきちんと利益を出している。だからいまでも継続できているのかもしれません。そこでおうかがいしたいのですが、税所さんが携わっている「e-Education」は今後、どのような形で稼ぎ、利益を出していこうと考えているのでしょうか?
税所:DVDの授業で成果が上がるんだ、ということを証明し、そのモデルを売りに行きたいと思っています。これまでは生徒に「このDVDを見るためには、このくらい払ってくださいね」という形でしたが、国と政府を顧客にして、教育インフラのビジネスにしていきたいですね。
「一流の先生というのは、その国にとって“公共財”のようなもの」と考えています。途上国の多くは教育予算があまりないので、特に農村では一流の先生の授業を受けることができません。ではどういった人たちが、その授業を受けられるのかというと一部のお金持ちだけ。お金持ちだけに囲われている状況って、間違っていると思うんですよ。ボクたちはその囲いをはずしていきたい……つまり「破壊」ですね。
土肥:なるほど。
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