鉄道業界に個人情報を任せられるのか:杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)
JR東日本が日立製作所へSuicaの乗降履歴データを販売――。この件で不安の声が上がった。それは「個人情報」についての理解不足と、「個人情報」に過敏な世相を反映した結果だ。こうした反応に対して、鉄道会社はどう対処すべきだろうか。
「自分が関わったデータ」に過敏な人たち
ここまで対策をしても、利用者に「自分のデータを売られたようで気持ち悪い」と思わせてしまった。これはもう理屈ではなく感情であり、JR東日本として予想外の反応だろう。その部分で、いわれなき批判を受けたJR東日本は気の毒である。しかし、消費者の心理を見誤った結果とも言える。
個人情報保護法の制定後も情報漏えい事件があったので、消費者のなかには「自分が関わるデータ」に過敏な人々が多い。個人情報ではないデータであっても「自分が関わったデータ」を勝手に使われたくないのだ。
そもそもSuicaのIDを使って、第三者が利用者を特定しようと思うだろうか。極端な例を出すと、殺人事件の現場にSuicaが落ちていたら、遺留品として警察が情報の開示を要求し、裁判所が礼状を発行するかもしれない。それほど特異な案件でもない限り、鉄道会社の内部処理以外でSuicaのIDなんて使わない。利用者にとっては「控えておけば落とした時に本人と証明できて便利です」という程度の番号だ。4000万以上という膨大なSuicaのIDから、個人を特定する意味はない。
8月5日の発表によると、交通系IC乗車券の電子マネーとしての利用件数、つまりお買い物の利用が月間1億件を突破したという(参照リンク)。買い物だけで1億件だから、本来の移動系の利用件数はもっと多い。そんな膨大な利用データの中から個人を特定する理由が見つからない。第一にめんどくさい。第二に処理上のリスクが大きすぎる。サーバーが膨大な決済処理をしている中で「ひとつひとつのIDを検索して、個人を特定する処理を割りこませる」なんてナンセンス。サーバーに余計な負荷をかけるだけだ。これは、データ通信系の仕事に携わったり、ITに関する知識を持ち合わせていれば常識だろう。
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