鉄道業界に個人情報を任せられるのか:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
JR東日本が日立製作所へSuicaの乗降履歴データを販売――。この件で不安の声が上がった。それは「個人情報」についての理解不足と、「個人情報」に過敏な世相を反映した結果だ。こうした反応に対して、鉄道会社はどう対処すべきだろうか。
ジュース自販機ではすでに活用されているSuicaデータ
日立製作所に乗降履歴データを販売する以前から、JR東日本はSuicaのデータを活用していた。JR東日本の駅に設置されているSuica決済可能な飲料自販機だ(関連記事)。Suicaで決済した場合、性別、生年月データを収集している。そのデータを分析して、季節や利用者に合わせて品揃えを入れ替えている。春から夏に向かって、そろそろ冷たいお茶が飲みたいな……と思ったり、今朝はフルーツジュースの気分だな、と思ったら、自販機に用意されていたりと、私たちの希望に近い商品が用意されている。
なぜ飲料自販機は問題にならず、日立製作所への提供は取り沙汰されたのか。他社への販売だからだろうか。いや、飲料自販機も別会社。JR東日本ウォータービジネスという会社の事業である。名前からして関連会社ではあるけれど、Suicaを発行したJR東日本とは別の会社だ。なぜジュースの品ぞろえの場合は騒がれず、駅周辺のマーケティングに使われる場合は批判されてしまったのか。個人情報について理解の低い人たちの声が目立ち、それを個人情報に関する知識の低いメディアがあおったからではないか。
「自分が関わったデータ」 に固執し「勝手に使うな」と過敏に反応する人に対して、企業はどう対処すべきだろう。ひとつは「自分が関わったデータがそのまま個人情報になるわけではない」と、消費者に理解してもらう。ただし、個人情報過敏症は理屈ではなく感情に起因するから、長い時間をかけて啓蒙する必要があるだろう。今回の件はその点でも、JR東日本の説明が後手に回ったと言える(参照リンク)。
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