鉄道業界に個人情報を任せられるのか:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
JR東日本が日立製作所へSuicaの乗降履歴データを販売――。この件で不安の声が上がった。それは「個人情報」についての理解不足と、「個人情報」に過敏な世相を反映した結果だ。こうした反応に対して、鉄道会社はどう対処すべきだろうか。
鉄道事業者のPマーク取得はゼロ
しかし、JIPDECが公開している「プライバシーマーク付与事業者一覧」の中に、JR東日本どころか鉄道事業者はひとつもない。鉄道会社はいまやIC乗車券で個人情報を取得している。かねてよりクレジットカードで決済もできる。団体旅行の募集もする。それにもかかわらず、鉄道事業者はどこもPマークを取得していない。これでは「鉄道会社の個人情報に関する認識は低い」と思われても仕方がない。
プライバシーマーク取得企業はWebで公開されている。何らかの不備によりマークの使用が取り消された企業も2年間にわたり公開される。鉄道事業者の取得件数はゼロ(出典:一般財団法人日本情報経済社会推進協会)
Suica騒動でJR東日本への批判は高まったが、日立製作所に対してはそれほどでもなかった。日立製作所はPマークを取得するだけではなく、個人情報管理の徹底について随時公開している(参照リンク)。その温度差が現れたのではないか。
鉄道会社は不動産業、小売業など多角的な経営を実施し、シナジー効果を挙げている。大手私鉄の経営戦略を見ても分かるように、もともと付帯事業がなければ鉄道事業本体が成立しないとも言える。一方、国鉄は付帯事業が制限されてきた。民業圧迫のおそれがあったからだ。しかし民営化後はその足かせが外れて、JR各社は鉄道以外のビジネスに積極的だ。不動産、小売、そして農業、電力まで手がけている。
JR東日本はその最先端として、ついに情報産業まで進出するに至った。そのサービスは鉄道利用者にも還元されるから、とても良いことだ。しかし、情報サービスをやるなら、情報産業の常識を踏まえたほうがいい。Pマーク取得はかなり高いハードルだろう。JR東日本ほどの大企業は従業員数も多く、しかも現業職が多いから、教育だけでも大変な手間になる。それでも、消費者の信頼を確固たるものにするためにはPマークを取得してほしい。他の鉄道会社の手本となってもらいたい。
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