なぜ、日本でiPhoneは売れるのか。:神尾寿の時事日想(2/5 ページ)
この秋に新モデル登場と噂されるiPhone。2007年に初代が発売されて以来、iPhoneはスマートフォン市場のけん引役であり続けた。よりハイスペックなAndroid端末も登場する中、iPhoneが売れ続けているのはなぜか? 改めて考えてみよう。
iPhoneの優位性は「ユーザーの多さ」と「評判のよさ」
初代iPhoneが登場してからiPhone 4あたりの頃まで、iPhoneの強さは文字どおり「iPhoneそのものの強さ」だった。他社を圧倒する優れたUIデザインに基本ソフト(OS)の先進性、単一モデルでたくさん売れるという"規模の経済"を前提にして、高性能・高品質な部品や素材もふんだんに使われていた。ソフトウェアからハードウェアまで、市場の平均水準を一気に引き上げる「トップグレード的な存在」がiPhoneだった。
しかし、スマートフォン市場が黎明期を終えて普及拡大期を迎える中で、iPhoneは優れたデザインの中に、バランスよく品質・性能の高さをまとめるようになってきた。あえて言うなら、単純なハードウェアのスペック競争から離脱したのだ。iPhone 4SやiPhone 5の頃には、カタログの数字だけ見れば、iPhoneよりも性能値の高いAndroidスマートフォンが登場するようになった。
それでもiPhoneが売れ続けているのはなぜか。
それはスマートフォン市場を構成する"主役"が変わったからだ。スマートフォンそのものに関心がある先進層や高感度層から、「みんながスマートフォンにしているから、そろそろスマホを買いたい」とケータイから買い換える一般層が市場の中心になってきた。ここでは製品そのものの細かなスペックの高さはあまり重視されない。その代わりに重要になってくるのが、周囲(家族・友人・知人)に「同じ機種を使っているユーザーが多く」、なおかつ「評判がいい」ことだ。この2つのポイントにおいて、iPhoneは圧倒的な優位性を持っているのである。
まず、「同じ機種を使っているユーザーが多い」という部分であるが、iPhoneの販売シェアは単一モデルとしてトップ。普通の人が周囲を見渡せば、すぐに"iPhoneユーザーの友人"が見つかるような状況になってきている。さらにiPhoneはAndroidスマートフォンのようにメーカーごと・モデルごとにUIデザインや機能が異なるということもないので、困った時に友人の使い方を聞いたり、教えあうといったことも簡単だ。iPhoneの単一性はリテラシーの伝播を促しやすく、それが今の市場環境においてプラスに働いているのだ。
他方で、周りがiPhoneユーザーばかりでは、「友達と利用機種がかぶることを嫌がる人も多くなるのではないか」という疑問も生じるだろう。しかし筆者が取材するかぎり、そのような傾向が顕著に見られるのは一部のガジェット好きのマニア層のみであり、一般層には現れていない。その理由としては、iPhoneはケース市場が他のスマートフォンよりも発達しており、デザイン性やファッション性に富んだケースが国内だけで数千アイテムの規模で存在することが挙げられるだろう。これら多様なケースとiPhoneならではの豊富なアプリによって、iPhoneの個性は演出されているのだ。とりわけ女子高生や女子大生のiPhoneユーザーに話を聞くと、彼女らが個性的なケースを選んだり、逆に友達同士でおそろいのケースにしたりして、「iPhoneかぶり」の状況をむしろ積極的に楽しんでいる様がうかがえる。
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