失敗することにびびってないか?――メガネECベンチャー創業者がスタンフォードで学んだこと:これからの働き方、新時代のリーダー(3/4 ページ)
メガネ専門のECサイト「Oh My Glasses」を立ち上げた若き起業家、清川忠康さん。大手証券会社などで企業再生ビジネスを手掛けていた同氏が留学先で受けた衝撃とは?
Oh My Glassesの成功のカギは「コンプリート・コントロール」
岡田: Oh My Glassesの話に戻りましょう。ビジネスプランで最も重要なものって何ですか?
清川: 「コンプリート・コントロール」というキーワードを非常に大切にしています。ビジネスのやり方も組織運営も人材採用も、すべてに通じる会社のルールです。
岡田: それって具体的にはどういうことですか?
清川: すべてをコントロールするために、Oh My Glassesにかかわるものすべてを内製化しています。仕入れは社内のバイヤーが行い、販売のためのECサイトも社内のエンジニアが作り上げました。物流拠点も自前で構えましたし、そこにはレンズを磨く職人もいます。だからこそ、メガネのお試しサービスのようなことも柔軟かつスピーディに対応できるのです。組織運営にしても完全にコントロールしたい。自分自身の強みを理解していて、各自がプロフェッショナルとして動けるような人材を採用した少数精鋭主義です。
次に、自分たちのお客さんについても完全に知りたいと思っています。既存のメガネメーカーがテレビCMに頼らざるを得ないのは、顧客一人ひとりの情報を把握できていないからでしょう。マスでやる以外、リーチする方法がないのです。Oh My Glassesは、顧客一人当たりにどれだけローコストでリーチできるのかを突き詰めています。だからこそ、メガネ業界のあり方をひっくり返せると思っています。
データによって、似たようなデザインのフレームでも、売れているモデルとそうでないモデルの違いが何に起因しているのかまで把握できます。例えば、売れ筋なのは球型(レンズの横幅)が何ミリのモデルなのかという具合です。自社で得られるデータと、世の中で売れているメガネのトレンドデータを突き合わせて、常にPDCAサイクルを回しています。
そして、自分たちのブランディングさえも完全にコントロールしたいと思っています。プライベートブランドの「+omg」を立ち上げたのは、自分たちのお客さんがほしいと思うメガネを、自分たちが良いと思うクオリティで、自分たちのプラットフォーム上で販売する。通常のECという枠組みを超えた、収益性の高い新しいECの形になっていくと自負しています。
わざと失敗してみることも重要だ
岡田: イケイケな感じですが、失敗したことはなかったのですか? 先ほどのスタンフォード時代の話でも「失敗に対する考え方」が変わったといっていましたよね。
清川: うーん、たくさんありますけど、1つ挙げるとしたら「楽天出店」でしょうか。自分たちのプラットフォーム以外にも進出して顧客へのリーチを広げようと考えたことがありまして楽天に出店してみたのですが、これは失敗でした。
でも、この失敗は大きな学習の機会となりました。既存のECサービスの中身がどうなっているのか、消費者はどう思って購入に至るのかなどが把握できた結果、一層、Oh My Glassesが目指すべきECの形が明確になりました。楽天が目指している価格訴求型のECには未来はありません。それが分かったタイミングで即座に楽天から撤退しましたし、出店準備中だったAmazonやYahoo! ショッピングもキャンセルしました。
本質的にやるべきことは、オンライン通販というユーザー体験やプロダクトの価値を上げることだと気づいたのです。重要なのは目先のトラフィックではありません。例えば、楽天では「お試しサービス」が提供できませんでしたが、これは同時にユーザー体験が損なわれていることでもあります。
そして、ここでいう「プロダクト」とは「イコール メガネ」にはなりません。メガネだけが良くてもダメで、必要なのはWebサイト、商品、サポートなど、すべてを常に一定のバランス感覚で提供し続けることです。そして、それを高いレベルにしていくことが重要です。
岡田: その失敗に対する考え方は留学中につちかわれたものですか?
清川: そうかもしれません。日本での社会人時代は組織の中で働いていましたから、できるだけ上司の意向に沿うように、ミスをしないようにというマインドが頭のどこかに残っていました。目立ったことをすれば飛ばされるかもしれませんし、触らぬ神にたたりなしだなと。
でも、米国では失敗が高く評価されます。それは経験であり、次の成功への学習だと理解されています。ですから、Oh My Glassesでもいかに失敗を上手に重ねていくべきか、致命傷さえ避けられれば失敗は恐れるものではありません。
岡田: まさに「失敗は成功の母」ということわざどおりですね。
清川: むしろ、失敗を前提にすることもありますよ。失敗したらどうなるのか分からないのは気持ちが悪いから。「こういうことが学びたいから」という仮説を立てて、コントロールした失敗を実際にやってみる。このように仮説を検証していくことで改善につながります。
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