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交通権ってなに? 画期的な法案が成立、私たちの生活はどうなる杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)

私たちが「自由に移動する権利」が「生存権」とほぼ同格になった。2013年11月13日、衆議院国土交通委員会は、内閣が提出した「交通政策基本法」を賛成多数で可決した。大きく報道されていないが、これは日本の交通政策の概念を大きく変える法律だ。

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杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 日本国憲法は第25条で「生存権」を定めている。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文だ。この「生活を営む」を「移動する」に置き換えると、「私たち国民は、健康で文化的な最低限度の移動する権利を有する」となる。大雑把にいうと、これを「交通権」という。

 わざわざ「権利」や「義務」という言葉を持ちださなくても、私たちはすでに自由に移動できている、と思うかもしれない。確かに私たちは県境を超えるたびに検問を受けたりしないし、駅に行けば自由にきっぷを買える。「あなたには◯◯という事情があるからきっぷを売りません」とはならない。裁判所が刑事裁判、民事裁判で特別な制限を課されない限り、誰でも自由に移動できる。

 しかし、交通権の侵害は実際に起きている。例えば鉄道やバスの路線廃止だ。あなたが普段、通勤や通学で利用している公共交通機関が、運営会社の都合で廃止される。病院に行くために都合のいい時間帯の市営バスが減便される。こうなると、あなたは生活のために移動する手段を失ってしまう。これが交通権の侵害だ。

 都会にはいくつもの交通機関があり、交通の選択の自由がある。しかし、地方に目を向ければ、これまでにローカル鉄道線の廃止やバス会社の経営破たんのニュースを聞いたはずだ。鉄道やバスだけではない。災害で橋が壊れた、土砂崩れでトンネルが崩れた、しかし自治体は財政赤字を理由に修復しようとしない。これも、普段橋やトンネルを利用する人にとって、自由に移動する権利を失った状態といえる。

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